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「インドの雇用環境および人事労務関連法規について」

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日系企業がインドに進出した当初は、出資金を送金したり、第一回取締役会を開催したり、各種税務登録、創業費等の精算などの手続きを随時進めていくことになりますが、最初に十分な検討が必要な事項としてインド人の雇用手続きや人事労務に関する管理方法が挙げられます。また、事業規模が大きくなるにつれて遵守すべき労働法コンプライアンスが増えるため各ステージに応じて適切な対処が必要です。今回は、従業員の雇用手続きおよび人事労務関連法規について、当地タミル・ナードゥ州の場合における具体的な実務をご紹介したいと思います。

 

 

「雇用手続きってどうすればいいの?就業規則っているの?」

 

 インド人従業員を雇用する際には、一般的にまず採用決定者にOffer Letter(=役職や給与、その他待遇、入社日など基本的な採用条件を明記した書類)を発行し、両社が署名することで内定期間として入社前に一定の合意を締結します。入社後は、Employment Contract(=雇用契約書)もしくはAppointment Letter(=辞令)などの書類に署名をすることで正式に雇用手続きを実施し、細かい就業上の規定については、Standing Order(=就業規則)として別途整備するのが一般的です。しかしながら、多くの中小企業は上記のような就業規則の内容についても最低限必要な規定のみを合わせて雇用契約書に盛り込んでしまい、細かい就業規則は特に整備をしない企業も比較的多いように思います。なぜなら、就業規則は、主には「100人以上の労働者を雇用する製造業者」などに作成義務が課せられており、ほとんどの中小企業においてはその作成義務がないからです。

 

なお、法的に「就業規則」の作成義務がないとは言っても、(Factory Actに規定される一定の製造業者を除く)全ての企業が最低限守るべき労働法規(=Shops and Establishment Actやその他各種労働関連法規)が州ごとに定められています。まずここでは、タミル・ナードゥ州の中小企業が実務的に最低限遵守しておくべき下記5つの労働法規についてご紹介したいと思います。

 

(1)就業時間(Working Hours)

(2)試用期間(Probation Period)

(3)給与支給日(Date of Salary Payment)

(4)休日・祝日(Holidays)

(5)有給休暇(Earned Leave)

 

「最低限理解しておくべき基本的な労働法規(※タミル・ナードゥ州の場合)」

 

(1) 就業時間(Working Hours)

原則、一日8時間、週48時間の基本就業時間、そして、4時間の就業に対して最低1時間の休息を与えることと規定されています。この基本就業時間を超える場合には残業代を支払う必要がありますが、一日10時間、週54時間を超えて就業させることは法律により禁止されています。なお、当該規定は例外的に経営陣や出張を伴う一定の従業員には適用されません。

 

(2) 試用期間(Probation Period)

会社は、最大6か月間の試用期間を設定することが可能で、当該試用期間中であれば事前通知および合理的な理由なく従業員を解雇することができます。しかしながら、試用期間終了後は、最低1か月前までに書面で通知をするか、もしくは、合理的な理由と合わせて最低1か月分の給与を支給しなければ解雇することはできません。

 

(3) 給与支給日(Date of Salary Payment)

会社は、社内で定められた給与計算期間の締日から5日以内に給与を支給することと規定されています。

 

(4) 休日・祝日(Holiday)

インド全土で共通の国民の祝日である下記4日間に加えて、各州が定める祝祭日の中から年間最低5日間を選択・付与する必要があります。なお、インドの祝祭日にはヒンドゥー教やイスラム教、キリスト教など各宗教に関連した祝祭日も多く、会社の従業員が信仰している宗教によって、会社もしくは拠点ごとに年間の休日カレンダーを個別に作成することになります。

 

国民の祝日 月日
1. 共和国記念日(Republic Day) 1月26日
2. 独立記念日(Independence Day) 8月15日
3. メーデー(Labour Day) 5月1日
4. ガンディー生誕記念日(Mahatma Gandhi Birthday) 10月2日

 

なお、会社が定めた年間の休日カレンダーは年初までに各地域所轄の労働当局(Labor Commissioner)に届け出を行った上で、受理されたもののコピーを事務所内に掲示しておく必要があります。

 

(5) 有給休暇(Earned Leave)

会社は従業員が入社後12か月間は有給休暇を付与する義務はなく、12ヶ月間が過ぎた後に初めて年間12日間の有給休暇を付与する義務が発生します。もし有給が消化されなかった場合には最大24日間まで繰り越すことが認められています。一方で、会社は傷病休暇(Sick Leave)および災害休暇(Casual Leave)を入社後すぐにそれぞれ最大12日間を付与することが義務付けられており、一般的にはそれぞれ6~12日間程度を付与している会社が多いように思います。

 

 

「その他の主な労働法規(※10名以上の従業員を雇用した場合)」

 

なお、従業員が10名以上となった場合にはさらに遵守すべき労働法コンプライアンスが増えることになります。ここではそれらの労働法規の中から特に重要な下記5つの制度についてご紹介したいと思います。

 

(1)労災保険制度(ESI:Employees’ State Insurance Act, 1948)

(2)退職金支払制度(The Payment of Gratuity Act, 1972)

(3)産休休暇制度(The Maternity Benefit Act, 1961)

(4)被用者年金基金(EPS:Employees’ Pension Scheme)

被用者積立基金(EPF:Employees’ Provident Fund)

(5)セクシャル・ハラスメント法(The Sexual Harassment of Women at Workplace (Prevention Prohibition and Redressal) Act, 2013)

 

 

(1) 労災保険制度(ESI:Employees’ State Insurance Act, 1948)

一部の労働者のみをカバーする労災保険のような制度で、従業員が10名以上の会社が適用事業者となります。なお、当該労災保険は月額給与が21,000ルピー以下の従業員のみが対象となり、病気や出産、労働災害等による一時的または恒久的な身体障害、労働災害をカバーする保険制度となっています。(※掛金は合計6.5%(従業員負担1.75%+会社負担4.75%))

 

(2) 退職金支払制度(The Payment of Gratuity Act, 1972)

5年間継続して勤務した従業員に対して退職金の支払を義務付ける制度で、従業員が10名以上の会社が適用事業者となります。退職金の金額は下記計算式に基づいて算出され、当該退職金にかかる引当金については保険数理士(=Actuary)により計算された金額を毎年計上する必要がある旨、インド会計基準第15条(Accounting Standard : AS15)において規定されています。

 

退職金 = 退職時の基本給×(15日/26日)×勤続年数

(※勤続年数について6か月以上12ヶ月未満の場合は1年とカウントします)

 

(3) 産前産後有給休暇制度(The Maternity Benefit Act, 1961)

直近12か月間で80日間以上の就業実績がある女性が、出産予定日の7週間前までに産休休暇を取得する旨を会社に通知することで、産前産後において合計26週間の有給休暇を取得できる制度です。従業員が10名以上の会社が適用事業者となります。(※The Maternity Benefit Amendment Bill 2016が承認されたことに伴い、以前は合計12週間であった産前産後の有給休暇が、2017年4月1日より26週間に変更されています。)

 

(4) 被用者年金基金(EPS:Employees’ Pension Scheme)、および、被用者積立基金(EPF:Employees’ Provident Fund)

従業員が20名以上の会社が適用事業者となり、月額給与15,000ルピー以下の従業員が強制加入となりますが、15,000ルピー超の従業員も任意で加入できます。

 

年金基金(EPS) 積立基金(EPF)
適用事業者 従業員20名以上の組織
対象者 月額給与15,000ルピー以下(強制加入)

月額給与15,000ルピー超(任意加入可)

(※日印社会保障協定において日本国の社会保険加入証明書を取得している日本人駐在員は加入免除)

従業員負担額 負担無し 12%
雇用主負担額 月額給与の8.33%

もしくは、1,250ルピーいずれか低い金額

 

月額給与の12%からEPS負担を引いた金額
払い戻し(脱退) 58歳以上に達した場合、もしくは、職務に復帰不可となる事象を有した場合

 

58歳以上に達した場合、もしくは、職務に復帰不可となる事象を有した場合。

(※ただし、2016年10月1日の日印社会保障協定発効後は、インドにおける雇用関係が終了時に払い戻しが可能)

 

 

(5) セクシャル・ハラスメント法(The Sexual Harassment of Women at Workplace (Prevention Prohibition and Redressal) Act, 2013)

これは、年齢、仕事、地位に関わらず、すべての女性に対して一切のセクシャル・ハラスメント行為のない安全な職場環境を提供する責任を雇用主が負うことを明記した制度で、従業員が10名以上、かつ、女性の従業員が1名以上いる会社が適用事業者となります。つまり、適用事業者は4人以上(=半数以上が女性で、外部委員1名を含む)からなるセクシャル・ハラスメント委員会(Sexual Harassment Committee)を設置する義務があり、もしセクシャル・ハラスメントに関する苦情の申し立てがあった場合には、当該委員会により苦情処理を適切に実施し、かつ、調査報告書を雇用主に報告する必要があります。

 

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