インドの内部統制監査の法規制および実務

by 田中啓介 / Keisuke Tanaka

インドでは、2015年3月期から全ての会社(経営者)が財務処理に関わる内部統制の構築と運用を行い、その有効性について検証することを要求しています(Rule 8(5)(ⅷ) of the Companies (Accounts) Rules, 2014)。そして、ついに現在進行期である2016年3月期からは、当該内部統制の構築および運用状況、その有効性について、外部の法定監査人が評価をして、監査報告書において意見を表明することが求められるようになりました(Section 143(3)(i) of the Companies Act, 2013)。今回は、インドにおいて内部統制監査が導入されることとなった背景と、インドに進出している日系企業が最低限知っておくべき内部統制の実務についてご紹介をしたいと思います。

 

「サーベンス・オクスリー法(SOX)および内部統制について」

「サーベンス・オクスリー法(略してSOX法)」とは、アメリカで2001年12月に起こった不正会計によるエンロン事件に端を発して、粉飾事件の再発防止と、投資家・株式市場からの信頼回復を目的に成立した米国の法律で、当該事件が起こってからわずか8カ月後の2002年7月に成立しました。主に、(1)コーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化、(2)正確な財務情報の開示、そして、(3)会計監査制度の改革、が重要な論点となっています。つまり、会社が不正行為を事前に防止し、かつ、正確な財務情報を適時に開示するための仕組みやプロセスを構築・運用することを義務付け、かつ、その有効性を外部の監査人が評価して意見を表明することを義務付ける法律です。

日本では「金融商品取引法」の一部規定(俗に言う「日本版SOX法」)において、同様の法律が2009年3月期の本決算から上場企業およびその連結子会社を対象に日本でも適用されることになっており、この流れを汲んで、さらに7年後の2016年3月期からインドでも「2013年 新会社法」の一部規定(俗に言う「インド版SOX法」)として、ついに適用されることになりました。

 

「インド版SOX法における内部統制の構築と運用について」

「インド版SOX法」が米国や日本と比べて大きく違う点は、当該規定が上場・非上場を問わず全てのインド法人に適用されるという点です。(※2015年11月現在)つまり、仮に日本人駐在員1名のみ、インド人スタッフが数名しかいないような進出規模の小さい日系企業であっても、内部統制の構築と運用が義務付けられ、かつ、法定監査人が監査報告書においてその有効性について意見を表明することが義務付けられています。

そもそも、多くの従業員を抱える大企業が、不正行為を事前に防止し、正確な財務情報を適時に開示するために、それを実現するための仕組みやプロセスを“自主的に”構築し、適切に運用していくことは、企業経営の観点からもある意味当たり前のことではありますが、一方で、数名の従業員しかいない小規模事業者にまで同様の仕組みやプロセスの構築を“義務付ける”ことについては、実務的な観点から疑問を呈している日系企業も多いことと思います。そこで、今回は、インドに進出している日系企業が、最低限これだけは確認しておくべき内部統制のポイントについてまとめておきたいと思います。

(※なお、これはあくまで個人的な経験に基づくインドで特に重要と思われるポイントをまとめたものに過ぎず、その仕組みやプロセス、運用状況の有効性の評価については、各企業が個別に選任している法定監査人の判断に委ねられていることから、現在選任されている監査人と事前に相談をした上で、自社のケースではどのような内部統制を構築しておくべきかを十分にご検討いただくことをオススメいたします。)

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「進出規模の小さい日系企業が確認しておくべき内部統制3つのポイント」

  1. 書類のファイリングおよび保管

インド現地法人は登録、報告、申告、納付など、設立当初からそれ以降継続的に数多くのコンプライアンスが求められ、手続が電子化されつつある昨今においても、依然としてほぼ全ての手続において書類の保管・提示・提出が求められています。これらの書類を種別にかつ時系列によってきっちりとファイリングし、かつ、登記事務所の安全な場所に保管をしておくこと、また、提出する書類は必ずコピーの控えを取っておき、確認したい書類をすぐに取り出せるように準備しておくことがとても重要です。当たり前のことであるため“たかがファイリング”と考えがちですが、重要な書類の不備が大きな問題に発展してしまう可能性はあり、また、コンプライアンスの全体像や手続の流れを把握していないと正しくファイリングをすることもできないため、“されどファイリング”最初の段階から専門家等のサポートを得ながら着実に書類整備を進めていかれることをオススメいたします。

  1. 小口現金および銀行預金の確認

最も基本的なことですが、「現金」の動きをしっかりと確認・把握しておくことが重要です。特に現金を取り扱うインド人担当者が社内にいる場合には、「現金を取り扱う人」と「支払を承認する人」、そして、「会計処理をする人」を分けておき、可能な限り毎日、現金残高と帳簿残高を照合する必要があります。(※これを内部統制の観点から特に重要な「保管」、「承認」、「記録」の職務分掌と言います。)また、現金残高については、不定期でサプライズチェックをすることも大切です。なお、インドでは一人に対して一日当たり合計20,000ルピーを超える現金の支払を行った場合には、原則、法人税法上、当該費用を税務上の損金に算入できないため、小口現金取引のある会社は注意が必要です。(40A(3A) of Income Tax Act, 1961)

  1. 売掛金の回収状況や買掛金の支払いに関する確認

サービスの提供をしたり、物を販売したりすると、売掛債権が計上されます。まずは定期的に売掛金残高を取引先と直接確認した上で差異がある場合にはすぐに分析することが大切です。なお、取引先によって支払条件は様々ですが、売掛金の年齢調べ表(Aging Report)を作成して、期日通りに支払われていない滞留債権について確認をした上で、売掛金の回収状況を関連部門に共有し、債権回収が遅れている理由を確認・把握・記録しておくことが重要です。例えば、経理担当者が取引先と癒着して、裏で現金を受け取り、当該売掛債権を貸倒処理してしまったり、値引処理してしまう等の不正リスクが考えられます。

一方で、支払債務に関しては、支払先と癒着して虚偽の経費支出を請求書に記載し、支払の一部を着服する等の不正リスクも考えられます。ベンダーの選定基準や入札プロセスの標準化を徹底し、十分な比較検討をした上で取引を開始すること、また、日頃からこまめに請求内容の詳細までをきっちりとチェックしておくことが大切です。

 

進出規模の比較的小さい日系企業の場合は特に、日々の業務に追われて経理業務が社内のインド人従業員に任せっきりになっているケースは多く、いつの間にか不正リスクや財務情報の虚偽表示リスクが高くなってしまっているケースが散見されます。子会社管理の観点からも、このようなリスクを未然に防ぐために、外部の専門家をうまく活用しながら、定期的な内部監査や月次レビュー等を実施し、社内のインド人従業員へ内部牽制しておくことをオススメいたします。

(↓RBI:Reserve Bank of India インド準備銀行のオフィス@チェンナイ)

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