インド大手SNSのWhatsAppモバイル体験はこれからどう変わるだろうか

by 田中啓介 / Keisuke Tanaka

(1)インド大手SNSのWhatsAppモバイル体験はこれからどう変わるだろうか

インド大手経済メディアのThe Economic Times社の2020年4月23日付報道によると、Facebook社がインド通信最大手のReliance Jio Platform(リライアンス・ジオ・プラットフォーム)社に約4,357億ルピー(約6,100億円)を出資して、9.99%の株式を取得すると発表しました。Jioは2016年に携帯市場に参入したばかりですが、低価格な端末「Jio Phone」と通信サービスを武器に、急激にインド国内シェアを伸ばして、現在3億7,000万超の加入者を抱えるインド最大の通信事業者になっています。

Facebookはインドでも大変人気ですが、それ以上にインド人にとって馴染みがあるのはFacebook傘下のSNSサービス「WhatsApp」で、インド国内での利用率は80%を超えていて他国と比較してもダントツです。WhatsAppはインド人がコミュニケーションをする際にプライベートでもビジネスにおいても日常的に使われていています。最近はByteDance(バイドダンス)やTikTok(ティクトク)などもインド国内ユーザーを獲得している中、FacebookがJioと組むことで、これからどんな新しいモバイル体験が実現されるのか楽しみです。

Source : Facebookがインド通信最大手のJioに大型投資

 

(2)インド国内Eコマース再開も、インド在住日本人にとっては依然として厳しい状況

インド大手経済メディアのThe Economic Times社の2020年4月10日付報道によると、Eコマースでの日用必需品以外の販売が5月4日から一部の地域で再開され、注文数がロックダウン前の50%超の水準まで回復したようです。インド大手のEコマース企業であるFlipkart(フリップカート)、Amazon、Snapdeal(スナップディール)はロックダウンが開始された3月25日から食料品、医薬品、ヘルスケア商品などの日用必需品のみ販売が許されていたため、それ以外の販売は40日ぶりということになります。

■ インド国内の感染状況のゾーニング

なお、現在インドではインド内政省(MHA : Ministry of Home Affairs)により、新型コロナウイルスの感染状況によって地域ごとに(1)レッドゾーン、(2)オレンジゾーン、(3)グリーンゾーン、の3つに分けられていますが、今回販売が再開されたのはオレンジとグリーンのゾーンに限られ、ほとんどのインド国内主要都市を含むレッドゾーンについては依然として日用必需品のみの配達しか認められていません。

■ ライフラインとしてのEコマース

卸売業者および配達員の人員不足の問題はあるものの、実店舗が再開できない状況でのこの報道は6憶を超えるインターネットユーザーにとって嬉しいもので、衣料品やスマートフォンに加えノートやボールペンなどの文房具も多く売れているようです。インド国内の多くの学校は6月に新学期が始まるため、多くの学生が授業の再開に備えて買い求めているのだろうと思われます。弊社が拠点を構えるチェンナイ やバンガロール、ハイデラバードでは必需品以外のEコマースはまだ再開されていませんが、日本人を含むほとんどの外国人は主要都市に住んでおり、外出さえもできない状況が今も続いています。1日も早くインド全土でのEコマースによる販売が再開されることを願っています。

Source:インドEコマース市場40日ぶりに販売再開

 

(3)ロックダウンで新たな気づき、税法と労働法の改定要請でインドIT産業はどう変わるのか

インド大手経済メディアのThe Economic Times社の2020年5月12日付報道によると、インドのIT業界が国に対して税法および労働法の改定を求めているようです。今回の新型コロナウィルスのパンデミックによってもたらされた変化の一環として、今後インド国内のIT労働者約430万人の半数近くが本格的に在宅勤務(以下、WFH : Work From Home)に切り替えるであろう、との推定が今回の法律改定要請の背景にあるようです。

■ ニューノーマル時代の働き方とNASSCOMの動き

インド最大のIT企業であるTata Consultancy Services(タタ・コンサルタンシー・サービシーズ社)は2025年までに従業員の75%は在宅勤務によるリモートワークにシフトしているだろうと予想しており、インド大手IT企業のTech Mahindra (テック・マヒンドラ社) のCEOであるCP Gurnani氏も在宅勤務を増やしていくこと、そして各地にいくつかのリモートワーク用のオフィスを用意し働く場所を分散させていくことを示唆しています。インドの主要IT関連企業が加盟している業界団体NASSCOM(※注)は現在WFHの観点から勤務時間やシフト時間等における労働法の規定について再定義が必要、さらにWFHにより新たに発生した費用を税務上の事業経費として損金が認められるべき、との認識を持っており、IT産業界からの要望も集約し、来週までに政府に報告書を送る準備をしています。

■ 期待されるインドIT産業への役割とさらなる成長

IT企業が集まるバンガロールでは渋滞がひどく、毎日1時間以上かけて通勤している人も珍しくありません。インドのIT産業はGDPの8%を占めており、今後さらに伸びていくことが予想されています。WFHが進むことで仕事効率が上がり、より働きやすい職場環境の再構築にもつながると考えられます。また、コロナ禍に端を発してオンライン化やクラウド化を含むDX(デジタルトランスフォーメーション)はさらに加速するものと想定され、インドIT産業の成長に拍車がかかることが期待できます。バンガロールに滞在する身としても今後渋滞が緩和され、大気汚染の改善も期待できるので、労働法が改定され、働き方のパラダイムシフトと共にWFHがさらに普及することを望んでいます。

※注:National Association of Software and Services Companies National(全国ソフトウェア・サービス企業協会)

Source:インドIT業界、インド政府へ税法と労働法の改定を求める

 

(4)インド政府、20兆ルピーの大規模経済対策で国民の不安は拭えるのだろうか

インド大手経済メディアのThe Times of India社の2020年5 月13 日付報道によると、前日5月12日に行われたナレンドラ・モディ首相の緊急演説を受けて、ニルマラ・シタラマン財務大臣が20兆ルピー(約28兆円)規模の経済支援の具体案を発表しました。これはGDPの約10%に当たり、今回発表された追加経済支援対策は、特にダメージの大きい中小企業の資金繰り改善および保護を目的としているものが多くなっています。具体的には、主な対策として3兆ルピーの無担保ローン(Collateral-free Automatic Loans)を借入期間4年および12ヶ月間の額面返済のモラトリアム期間を付与して提供すること、劣後債(Subordinate Debt)として2,000億ルピーを援助すること、政府が実施する 20 億ルピー以下の入札に対する外資系企業の参入禁止などが挙げられました。他にも2021年3月31日まで源泉所得税(TDS : Tax Deducted at Source)の税率を25%軽減すること、個人所得税や法人所得税、GSTなどの各種税金の申告期限の延長、そして、銀行以外の金融機関に対する3,000億ルピーの資金投入、配電会社への 9,000 億ルピーの資金投入などが発表されました。

■ 大型経済対策によるインド経済と失業者への影響はどうなるか

2020年のインド経済は40年ぶりにマイナス成長となることが予想されておりますが、今回の経済対策によりマイナス成長に歯止めをかけ、そして、経済が成長軌道に戻ることを後押ししてくれると期待しています。しかし、今回の経済対策はインド経済の中枢を担う中小企業を守ることが主な目的となっており、失業者に対する直接的な所得補償はありませんでした。2020年3月にすでに貧困層向けには1兆7,000億ルピー(約2兆5,500億円)規模の経済対策パッケージが発表されていましたが(5キロの米または小麦の3ヶ月間無償支給や貧困女性2億人への1人当たり1,500ルピー(約2,100円)の支給など)、決して十分な補償であったとは言えません。インド国内の失業者数は4月末時点で1億2,000万人を超えており、失業率は約25%となっています。容認しがたいデータではありますが、“アフターコロナ”に経済成長への軌道をスムーズにするためにも、今後この失業者に対するインド政府による適切な対策が施されることを願っています。

Source:インド政府、約28兆円の経済対策を発表

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