M&Aの動向とインド進出日系企業の事例から見る経営のポイント

by 田中啓介 / Keisuke Tanaka

インドM&A市場の動向

最近、M&Aや合弁をインド進出の選択肢として積極的に検討する日系企業が増えているように感じます。10年以上前に大型M&A案件として注目を浴びた第一三共によるランバクシー社の買収やNTTドコモによるタタテレサービシーズ社への出資などで盛り上がりましたが、両社ともにインド企業側との係争に発展してしまい、事実上の撤退にまで至りました。これを機に「やはりインドは難しい」と、インド進出への意思決定を懸念する日系企業も少なくなかったのではないかと思います。しかしながら、2014年にモディ政権が誕生後、保険セクターを中心とした外資規制緩和やデジタル・インディア政策にもとづく各種手続きの電子化、高額紙幣廃止によるデジタル経済の促進、GST新税制導入、外貨借入(ECB)規制の緩和を含め、投資環境の改善が着々と進んできた中で、「やはり無視できないインド」に再び注目が集まっているように思います。

並ぶときいつもこんな感じ。そんなにひっつかなくても。。。笑

M&Aとインド進出を成功に導くポイント

 日系企業からのM&Aを望むインド企業の背景としては、日本ブランドの獲得や低利の資金調達、先端技術の導入、日系クライアントへの販路拡大など様々です。M&Aが成立するまでのプロセスとしては、パートナー選びや基本合意、対象企業のデューデリジェンス、最終契約という流れになりますが、多大な労力と費用をかけてようやくM&Aが成立したにもかかわらず、M&A成立後の経営統合(PMI:Post Merger Integration)がうまくいっていない日系企業が多いように思います。私の経験上、インド事業を成功に導くためには以下3点が重要なポイントであり、これはM&Aに限らずインドに進出する日系企業すべてに共通して言えるものだと感じます。(※そもそも黒字化できるビジネスモデルであることが前提ですが。)

1.役割分担と権限委譲

M&A成立後の日系企業とインド企業の役割が明確か、また、当地インドに駐在する日本人の役割に無理がないか、そして、現場の経営者に日々の実務をスピーディーに意思決定できる十分な権限移譲がなされているか。もし、日本人駐在員の英語力や経験、知識から、期待されている役割が過剰である場合には、十分な予算をつけて一部の経営管理業務を外部委託する必要があります。M&Aや合弁におけるインド企業パートナーが外部委託によるコスト負担に懸念を示すケースが散見されますが、不用意なコスト削減が経営をブラックボックス化しないよう注意が必要です。

2.現地法人経営者のスキル

インド現地法人を経営する者はビジネスの取引先と交渉し、従業員と対話し、社内外のステークホルダーや専門家などと協調しながら、スピード感をもって経営判断を行っていくことが求められます。つまり、幅広い分野・領域のインド人と対等に会話ができる経営者としてのバランス感覚、チャンスとリスクを的確に感じ取るセンス、人間力、そして、実務で使える圧倒的な英語力が必要になります。イギリスの植民地という歴史を持つインドであり、アメリカ志向の強いインド人にとって、英語ができない人を“下”に見る傾向は強く、これは、タイやベトナムのように日本語が話せる現地人と連携してうまく事業を回していくやり方では通用しないインド独特の厳しさがあります。

3.帰属意識と安心感

最後に、私がもっとも重要だと考えているポイントがこれです。あくまで南インド・チェンナイにおける私自身の会社経営の経験がベースになっていますが、現地法人のインド人従業員がどれだけ会社に「帰属意識」と「安心感」を持っているかが何より重要だと考えています。特に、M&A成立直後はこの2つの要素が欠落してしまっている可能性があり、日系企業としてはPMIの期間は特に細心の注意を払う必要があります。つまり、現地法人の経営者自らが、現場ひとりひとりの従業員(や場合によってはその家族)との丁寧なコミュニケーションを大切にし、顧客への価値創出のための明確なアドバイスと感謝の気持ちを毎日伝え続けること、ミスを積極的に許すこと、経営者の弱さも見せること、定期的に食事を共にすること、こういった日々の小さな言葉や行動の積み重ねが「帰属意識」と「安心感」を社内に醸成します。これが欠落すると、従業員の不正リスクや離職率の悪化、さらには、事業の生産性にまで大きく影響します。

開発が進むムンバイのパレル地区(Parel)
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