今日はちょっと真面目な話を。
日本-インド間の国境を越えた国際取引の中で
インドから日本(非居住者)への支払をする際のお話です。
日系企業や日本親会社はインド企業やインド子会社に対して
概ね何らかのサービスや物品を提供/輸出しています。
今日はサービスの提供の部分にフォーカスしたいと思いますが、
例えば、技術支援や営業支援のためにインドに出張者を派遣したり、
日本企業の技術やノウハウ等をインドに供与したり、
インド子会社の経営管理サポートを実施したりしています。
つまり、当然のことながら、日本企業はインド企業やインド子会社に対して
人的役務提供報酬やロイヤリティ、管理報酬、貸付利息などを請求します。
これらの請求に対する支払が「インド国内から非居住者への支払」に該当するわけですが、
これらの国際取引を適切に処理するためには
インド国における国内法と、関連する判例に基づいたその解釈、
そして、日印租税条約による影響を理解することがとても大切です。
具体的に注意すべき3つのポイントを以下のとおり3回の連載でご紹介したいと思います。
- 第1回「日本法人が取得すべきPANおよびTRCについて」
- 第2回「インドから日本への支払時に準備すべき書類について」
- 第3回「日本法人がインド税務当局に申告すべき事項」
第1回「日本法人が取得すべきPANおよびTRCについて」
インドから日本へ支払を行う際に、日印租税条約(DTAA)に規定された軽減税率10%を適用するためには、日本法人がPANおよびTRCを取得する必要がある、というのが現状の定説となっています。PANとは「Permanent Account Number」の略語でインド国内税務番号のことを指し、TRCとは「Tax Residency Certificate」の略で居住者証明書のことを指します。
さて、上記の要件が規定されているのは、主にインド所得税法第206AAと第90条2項、そして、所得税法第90A条。所得税法第206AA条の規定によると、課税所得の支払を受ける者が、支払者に対してPAN番号を提示しない場合には、20%の税率、または、関連法に規定された現行税率のいずれか高い方の税率に基づき源泉所得税(TDS)の徴収がなされることが義務付けられおり、所得税法第90条2項の規定においては、納税者は、租税条約と国内法で、どちらか有利な方法を優先的に適用することができる、とされています。
なお、TRCは2012年4月から導入された新しい要件ですが、これは日本国の所轄税務署が発行する居住者証明書で、その証明期間には注意が必要です。つまり、将来の一定期間を含む証明書の発行がなされれば理想的ですが、過去の一定期間のみを証明するものである場合には、それ以降インドから日本への送金が発生する都度毎回TRCの発行依頼を行う必要があります。また、2013年4月から導入されたForm 10Fというフォーマットに従って一定の情報を整備しておくことも求められます。
ここでひとつ税務訴訟案件をご紹介します。先月2015年4月にプネの地方裁判所(Tribunal)において興味深い判決がなされました。「え?そうなん?」と思わず拍子抜けしそうな内容ですが、簡単にご紹介をするとこんな感じです。インド国内から非居住者に対して様々な支払を行っていたある企業が、支払を受ける者(非居住者)のPAN番号を取得していなかったにもかかわらず、租税条約に規定される軽減税率を適用していた、としてインド税務当局から本来適用すべき高い税率と租税条約の軽減税率との差額部分に対して追徴課税を受けたことによる税務訴訟です。すでにご紹介したとおり、所得税法第206AA条の規定によると、課税所得の支払を受ける者が、支払者に対してPAN番号を提示しない場合には、20%の税率、または、関連法に規定された現行税率のいずれか高い方の税率に基づき源泉所得税(TDS)を徴収することが義務付けられていますが、判決内容によると、この規定は非居住者に対しては適用されることはなく、所得税法第90条2項が優先されるために、PAN番号の提示がなくても納税者は租税条約に規定される有利な税率を適用することが認められる、という判決を下したことになります。
本件はあくまで一地方の裁判所の判決例にすぎず、高等裁判所や最高裁判所において判決が下されない限りは一定の信頼性の担保さえもなされませんので、いずれにせよ従来通りPANおよびTRCの取得が必要との見解で当面は対応すべきであることは間違いなさそうです。
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[…] 第1回の記事はこちら(https://tanakkei.com/?p=11612) […]
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