リコーやトヨタの事例からインド子会社管理について考える

by 田中啓介 / Keisuke Tanaka

 日系企業の不祥事が相次いでいます。東芝やオリンパスの粉飾決算が記憶に新しい方も多いと思いますが、インドでも日系企業の海外子会社管理について考えさせられるニュース報道が続いています。例えば、2015年にリコーのインド子会社での不正会計処理が発覚しました。これを受けて、同社は20173月期決算において65億円もの追加損失を計上。74%の株式を保有するリコー本社はさらに当該インド子会社株式の一部を無償償却し171億円の増資を引き受けることを発表、そして、これまで債務保証を継続するなどして経営再建中でしたが、2017年末に追加の財政支援をついに打ち切るとの発表がされました。2015年に監査法人を変更することで発覚したリコーインド子会社の不正会計ですが、その後も業績は回復に向かわず、主要取引先との関係も悪化したために今回の意志決定に至ったとの報道がされております。今後の対応策として、リコー本社は定期的に海外子会社の財務諸表を精査し、本社管理部門の機能強化を図っていくようです。

 

 また、インドでは8年ほど前に発覚していたインド企業サティヤム・コンピューター・サービシーズ社(=通称インド版エンロン事件)の粉飾決算事件を受けて、インド証券取引委員会(SEBI)はこの度、2018110日に当時監査業務を担っていた大手監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)に2年間の上場企業の監査業務停止命令を出しました。不正会計や粉飾決算の事実関係については公表されていませんが、海外進出を検討する日系企業が増え続けている昨今、つい疎かになりがちな海外子会社の管理については、不正防止のための内部統制やコンプライアンス遵守のための管理体制の構築を検討・再考すべきタイミングに来ているのかもしれません。インド会社法においても監査法人の任期を5年(最長10年)とするローテーションの義務化や内部統制監査の義務化(一部の非公開企業は対象外)などが規定されており、企業と監査人が果たすべき責務や遵守すべきルールは厳しくなる一方ですが、何よりも企業が自主的に管理体制を再考することが大切です。例えば、信頼できる社外会計士やコンサルタントを見つけ、内部監査人として選任して定期的に社内のプロセスやコンプライアンス状況をレビューをさせるなど、性悪説に立った上で社内の従業員に一定の牽制を効かせることも検討に値するものと考えます。

 

 さらに昨年末、知的財産権(IPIntellectual Property)の観点からのインド子会社管理について、日系企業にさらなる警笛を鳴らすニュースが報道されました。2009年にトヨタ自動車がインドの地場自動車部品メーカーであるプリウス・オート・インダストリー社(以下、プリウスオート社)に対して「プリウス(PRIUS)」の商標権(Trademark)の使用差し止めを求めていた訴訟で、201712月の最高裁の判決によりトヨタの敗訴が確定し、8年間に及ぶ訴訟に終止符が打たれた、というものです。1997年に発表されたトヨタのハイブリッド車「PRIUS」が、上記プリウスオート社が「PRIUS」の商標を使ってビジネスを始めた2001年よりも以前において、国際的な名声・ブランドとしてすでに世界的に認識されており、かつ、インド国内においても浸透していたかどうかが争点となりました。結果的に、その当時インド市場においてはブランドが確立されているとは言えないとの判断がなされ、トヨタの要求は最高裁に認められなかったことになります。

 

 実は、これまでにもインドで同様の事例が多発しています。例えば、2015年にドイツ自動車メーカーであるアウディAudiがインドで“Audi TT”ブランドを使用したカーアクセサリー等を販売していたところ、同じく“TT”の商標登録をしていたインド地場企業TTテキスタイル・リミテッド社の商標権の侵害となり、“Audi TT”ブランドの販売ができなくなりました。また、2013年に米自動車メーカーであるフォードFordが、世界中で販売されている有名モデルSUVエベレスト(Everestをインドで販売しようとしたところ、インド地場のマサラ・スパイスメーカーであるエベレスト・マサラ社の登録商標権の侵害となり、“Everest”の商標は残念ながらインドでは使用できず、その代わりにインドのみエンデバー(Endeavourというモデルになっています。マサラスパイスでお腹を壊すことはありますが、フォードもまさにインドのマサラスパイスにやられちゃったわけですね、、、笑。いやいやフォードは笑えません。

 

 例えば、商標権はその権利が侵害された場合において、インド政府は「一方的業務停止命令」を発令する権利を持っています。つまり、インドに進出する日系企業が知らぬ間に他社の商標権を侵害していた場合において、突然ビジネスの停止を余儀なくされる可能性がある、ということになります。したがって、このような潜在的な事業リスクをしっかりと把握した上で、事前に商標の登録状況を確認をしておく必要があります。海外子会社の管理というのは、会計や税務、人事労務だけでなく、その他事業に必要な許認可や上述のような知的財産権に至るまで広範囲に及ぶため、特にインドという巨大市場で長期的に戦っていくためには、各分野における信頼できる専門家とのネットワークを構築し、事業の成長ステージにおいて適切なタイミングで対処・管理していくことがとても重要です。

(↓ハイデラバード中心街の様子↓)

 

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