1. はじめに
日本が世界に誇る大スターで、私の頭に浮かんでくるのは2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で世界一に輝いた日本チームの立役者、“大谷翔平”選手です。
日本人であれば私に限らず、このような発想になる人は多いのではないでしょうか。老若男女、すべての国民が彼の活躍を応援しているといっても過言ではありません。
では、なぜ大谷翔平選手はそれほどカリスマ的な存在なのでしょう。もちろん、彼自身の人格や実績が大きな要因だと思いますが、それとは別に、野球というスポーツが日本の国技だからという理由も考えられます。
世界中いろいろな国で、その国を代表するスポーツがあり、それは人々の心を奮い立たせると同時に、自国民としての誇りを思い出させます。
こういった国を代表する国技として、インドではクリケットが受け入れられています。日本ではあまり馴染のないスポーツですが、14億人からなる大国インドでの影響力は相当なものです。
本記事では、インドにおけるクリケットの歴史、インド人のクリケットに対する情熱といった点に注目して、クリケットというスポーツについて体系的にまとめていきたいと思います。
2. クリケットってどんなスポーツ?
クリケットとは、基本的に「11人で構成された2つのチームが、2イニング中に攻守を交代し、総得点の多い方を競い合うスポーツ」です。主な特徴としては、以下のような3つが挙げられます。
1.英国・豪州・インドなどの英連邦諸国で盛んな球技
2.競技人口はサッカーに次いで世界第2位と言われている
3.フェアプレーを重んじる紳士・淑女のスポーツ
テストマッチ、ワンデーインターナショナル、T20(トュエンティ20)など様々な形式があり、それぞれの形式ごとに試合の時間や攻守の回数が異なります。最も古典的な形式はテストマッチで、1試合あたり最大5日間かかり、スコアも数百点から千点以上になることは少なくありません。
(*2) 出所:日本クリケット協会HP
具体的なルールを説明すると、攻撃側・守備側・グランドとフィールド側という3つに分けることが可能で、独自のルールが多く非常に戦略的な戦い方が求められます。(*3)
(1) 攻撃側のルール
・チームはバッツマン(打者)2人がペアを作り、打者と走者に分かれる
・バッツマンは相手のフィールディングチームがボールをフィールドに戻す前に、ピッチ間をランすることが目的
・打者はボールを打ち、走者が相手側のウィケットまで走りきれば1点、往復で2点、ボールが境界線を超えれば4点、ノーバウンドで超えれば6点が得点
・攻撃は10人アウトになるか、50オーバー(ボウラーが60球投げるまで)が終了するまで続けられる
(2) 守備側のルール
・守備側はボウラー(投手)、ウィケットキーパー(捕手)、フィールダー(野手)に分かれる
・ボウラーは助走してワンバウンドさせて投球し、6球で1オーバー、10オーバーまでしか投球できない
・ウィケットキーパーはボウラーの投球を受け、フィールダーはボールを取りに行く
・バッツマンをアウトにするためには、ウィケットを破壊する必要がある
(3) グラウンドとフィールド
・グラウンドは芝生のピッチがある広大な場所で、ピッチの中央には3本の杭とベイルで構成されるウィケットがある
・ピッチは20.12mの長さのエリアで、ピッチの中央で投球と打撃が行われる
・グラウンド全体の大きさは長径60m、短径40mほど
※ 下線部分は個人的に面白いと思ったルールです!
3. クリケット人気の背景にある歴史
では、そもそもなぜインドではクリケットが国技として認められるほど人気なのでしょうか。様々な情報をもとに、その歴史を遡ってクリケットという紳士のスポーツをより深く理解していきましょう。
18世紀末、インドがまだイギリスの植民地だった時代に、このスポーツは当初、英国軍や植民地の支配層の娯楽として導入されました。やがて、地元の人々にも広がりを見せ始め、インドのクリケットは数世代に渡り、数多くのファンを魅了し続け現在に至ります。
当時、厳密に「国技」とされるものが無かったインドでは、1928年に大衆の人気と共にBCCI(Board of Cricket Control in India)が設立され、クリケットの発展と普及、国内リーグの組織、国際クリケットチームの編成など、インドのクリケットに関連するあらゆる側面を管理するようになりました。(*4)
(*5) (*6)
インド国内で行われる最も有名なリーグはインディアン・プレミア・リーグ(IPL)で、T20(トュエンティ20)が一般的な試合形式として定められています。
前のセクションで少し触れていましたが、T20とは2003年にイングランドのクリケットボード(England and Wales Cricket Board)が初めて導入した形式で、1試合が通常3~4時間で終了するほど短い試合時間で行われるものです。
他の形式に比べて試合時間が短いので、バッター側にもボウリング側にもより攻撃的なプレイスタイルで多様な戦術やスキルが必要とされます。T20の導入は、これまで関心を示してこなかった新たな観客を取り込み、短い時間内で緊張感と興奮を提供することで、インド国内におけるクリケットの普及と人気に大きく貢献しました。
以下にクリケットを代表する3つの試合形式についてルールの違いをまとめた表を作ったので、異なる点はどこなのか見てみましょう。
クリケットに代表される3つの試合形式
TEST | ODI | T20 | |
期間 | 5日間/1日あたり7時間 | 1日/7-8時間 | 3-4時間 |
イニング数(1チーム) | 2回 | 1回 | 1回 |
オーバー数(1イニング) | 制限なし | 50オーバー | 20オーバー |
タイ(TIE) | あり | あり | あり |
ドロー(DRAW) | あり | なし | なし |
ボウラー制限 | なし | 10オーバー | 4オーバー |
フィールダー制限 | なし | あり | あり |
ODI : One Day International (*7)
違が分かりづらい用語を説明すると、タイ(TIE)は得点が同点で終了した場合に使用され、ドロー(DRAW)は試合が時間内に決着がつかず引き分けとなった場合に使用されます。
また、ボウラー制限とフォールダー制限とは通常T20に良く見られる制度で、オーバーの回数とフィールドに配置できる人数を制限しています。
このように、クリケットというスポーツは人々の需要の変化に柔軟に対応し、異なるルールの試合形式を用いて、今も直インドで最も人気を博すスポーツとして君臨しています。
※オーバー : ボウリング(投球)の単位を表す用語で、ボウラー(投手)がクリケットボールを6
回投げ終わると1オーバーが完了する
4. インディアン・プレミア・リーグの巨大市場
とりあえず、クリケットというスポーツのルールやインドで受け入れられた歴史はご理解して頂けたと思います。しかし、まだまだクリケットの魅力を皆さんに伝えきれていません。
今回の記事では、私の知り得る限りの情報を用いて皆様にクリケットファンになってもらうことが私の使命であると思っているので、以下ではインド最大のクリケットリーグであるインディアン・プレミア・リーグの規模と、その経済効果という点に注目してクリケットの魅力を全面的に知ってもらおうと思います。
日本人の皆さんなら一度は聞いたことがあるであろう、「ドラフト会議」という言葉、これは日本プロ野球界で最も注目されるイベントの1つで、これから野球選手になる高校球児たちを国内のプロ野球チームが抽選形式で獲得していくものです。 (*8)
インディアン・プレミア・リーグも同じような形式で選手の獲得が行われており、インド国内10の都市を代表するフランチャイズ(チーム)が予算内で希望の選手を獲得しようと競い合います。(2023年時点)
(*9) (*10)
インド国内の選手だけでなく、オーストラリア、南アフリカ、西インド諸島などからも多くの国際的なスターが参加しており、各フランチャイズは特定の都市や地域を代表しているので、地域ごとの雰囲気が備わっており、年々熱狂的なサポーターを生み出しています。 以下は、インディアン・プレミア・リーグに見られる主な特徴です。
・グループステージとプレーオフのラウンドロビン方式
・各チームは少なくとも1回は他の全てのチームと対戦する
・上位4チームがプレーオフに進出
・全てのフランチャイズにインド人選手と外国人選手の両方を含める
2.クリケットってどんなスポーツ?でも述べた通り、サッカーに次いで世界2位、約25億人の競技人口を誇るクリケットは、人数だけではなく市場規模を見てもその数値は圧倒的です。
2019年の調査では全体の市場規模が約67億ドル(およそ9,900億円)と報告されており、日本野球の市場規模が約1800億円なので、単純に計算すると5倍も多くのお金が動いていることになります。(*11)
有名なスポンサー企業だとペプシ・コーラの飲料メーカー「ペプシコ」や、インドの最大級の財閥である「タタ・グループ」があり、テレビで放映される約10秒の広告が200万円台で取引されています。
クリケット全体の市場規模が大きければ、もちろん選手の年俸も高く、リーグ全体の平均年俸はなんと4億6000万と信じ難い金額です。
インディアン・プレミア・リーグは単なるクリケットの試合だけではなく、ハーフタイムショー、有名アーティストによる音楽コンサート、派手なオープニングセレモニーなどのエンターテイメントが取り入れられているので、単純な競技人口とこれらの要素が相まって野球の遥か上をゆく経済効果を出していると考えられます。
5. クリケットへの情熱と今後の展望
まさに、クリケットはインドだけでなく、世界中で盛り上がりを見せるメジャーなスポーツであると言えます。
最近では、私が居住しているバンガロールという地域でもICCクリケットワールドカップのトーナメントが行われており、チャーチ・ストリートというメインロードではショッピングモールの巨大テレビジョンに映る試合を、皆が立ち止まって観戦していました。
余談ですが、50年以上前に建てられたこのMチナスワミスタジアムは、太陽光パネルを使用して電気を発生させる世界で初めてのスタジアムらしいです。
収容人数は約4万人で、チケットは3,000円~13,500円までと座席によってその価格は異なります。これほどの規模のスタジアムがインド中にあるので、試合ごとの収益だけでも相当な額を叩き出します。
また、2006年にインド女子クリケット協会(WCAI)がBCCIと合併した頃から、徐々に世界中で女子クリケットの人気も高まってきており、メディアやスポンサーの影響でミタリ・ラージやジュラン・ゴスワミのようなスター選手が非常に注目されています。(*13)
男子クリケットと比べても、ボールの大きさが異なる点以外ではそれほど大きな違いは見られません。そういった意味では、性別関係なく愛されているスポーツと言うこともできます。
今後人口増加が続くインド、ましてはクリケットに力を入れている諸外国では、将来的にもクリケットの熱狂的なファンやスポンサーも増えていくことでしょう。
日本の野球も非常に魅力的ではありますが、クリケットも今後はインドの国技として想像を超える盛り上がりを見せてくれるのではないかと思います。
6. まとめ
本記事では、日本であまり知られていないクリケットについて、基礎的なルールからインドでの盛り上がりまで、様々な観点から解説してきました。
皆さんが抱かれていたイメージとはかなり違ったのではないでしょうか。
人によって意見は違いますが、私はスポーツの価値が「競技による対決や協力を通して、観ている人々やプレーしている選手たち自身が心から楽しみ、人生を眩しいほどに輝かせること」ではないかと考えています。
この記事を読まれている方々の中には、私も含めてこれまでクリケットに関心を示してこなかったという人も多いことでしょう。
今回を機会に野球やサッカーだけでなく、新たなスポーツとしてクリケットに興味を持つのも良いかもしれません。
※本記事の参考サイト一覧
(*2)Japan Cricket Association クリケットとは
(*3)初心者でも分かる!クリケットの基本的ルール|【SPAIA】スパイア
(*4)International Cricket Council (icc-cricket.com)
(*5)Why Indian cricket team still uses British-era logo: CIC to PMO – Rediff Cricket
(*7)Does modern day cricket favour batsmen more than the bowler? – Quora
(*8)A Brief Introduction to IPL History – Revsportz
(*11)NumPy – ケーススタディ: クリケット分析、ゲームチェンジャー!
(*12) M.Chinnaswamy Stadium, Bangalore, Records, Stats, Capacity, Details (cricsload.com)