皆さんはインドでお医者さんに罹るというとどんなイメージをお持ちでしょうか?
ではお医者さんの中でも、歯医者となればどうでしょう?
日本では日本人の目線から見たインドのおもしろ映像などとして、街中で診察を行う野外&路上歯科医のようなものをテレビで配信していたり、インターネットの画像などがヒットすることもあります。ただでさえお国を問わず歯医者は苦手と言う意見をよく聞きますから確かに野外&路上歯科医では大いに不安があると思います。では、本当はどうなのでしょうか?
インドには日本のような歯科医院はないのでしょうか?
インドにおける予防歯科に対する意識
まず本題に入る前に、少しインドにおける予防歯科に対する意識についてお話したいと思います。
これは発展途上国ではほぼ共通している事実であり、インドも然りです。日本では幼いころから学校などで定期的に虫歯チェックがあったり、給食の後に歯磨きの時間があったり、家庭だけでなく学校でも歯の磨き方を教えてもらう機会がありますが、インドではこのような機会すらありません。
勿論、親や同居している家族全体の意識がほぼゼロですから、子供のころから自然に身につくということは無理です。大都市に住んでいる方や教育水準が高い方、海外在住インド人(NRI)の中には自主的に歯石取りや矯正のためにと歯科に通う方もいますが、全体的に見てもこのような方々はごく僅かであり、大半は実際に虫歯になってから、しかも虫歯がズキズキと痛みだしてから歯科医に駆け込むという患者さんが本当に多いです。
実際には歯科医でもない一素人の私に何を話せというのか?と思いながらも主催者から「何でもよいので日本で育って今まで知りえたこと、いつも家で話してるような内容でよい」と勝手なことを言ってくるので、「大丈夫かな?そんなこと知ってるよー!」と思われるのではないかと思いながらも、ちょっと冗談を交えつつ歯ブラシの持ち方から磨き方、歯周病からくる様々な健康被害のリスク等スライドを用いてお話させてもらいました。
歯科医師のクオリティ
さて、ここからは実際の現場の様子をご紹介したいと思います。まずはインドの歯科医院のクオリティについて。インドの人口は現在世界第二位と言われる約14億人弱。
そして歯科医師の数も世界で2番目に多く、インド歯科医組合に登録されている医師は約27万人と言われています。これは約5,200人に対して一人の歯科医の割合となります。日本は約1500人に対して1人の歯科医師の割合となりますから、単純に見て約3.5倍の患者さんを一人の歯科医師が抱えている計算になります。
勿論、日本は国民皆保険制度の国であり誰でも保険証さえあれば医師に罹ることができ、逆にインドは自由診察制であり医師によって値段もまちまち。
また、歯科医の数と同じように歯科技工士の数も非常に多い国ですから、治療に要するスピードが日本に比べて早い場合が多いというのはメリットかもしれません。
治療に係る値段
これらの値段は医師の技術の程度や考え方、クリニックの設備やエリアによって異なり最低20ルピー(約30円)というような激安の医師もいますが5,000ルピー(約7,500円)というような日本と比べても遥かに高価な医師もいます。
そのような場合は、利用する治療材料の品質を変える医師もいますが、そうでない医師もいます。
そのため、インドで医師に罹る際は歯科医に限らず、まず基本的な値段帯を最低でも電話で問い合わせてから予約を取り、診療方針に関しても値段を含めてあらかじめ説明をきちんとしてくれる医師を選択するのが賢明だと言えるでしょう。
医師絶対主義?
インドでは歯科医に限らず、医師は絶対的な存在だと見られています。
別に「絶対主義」と言っても根拠もなく威張りくさっているという訳ではないのですが(中には根拠もなく威張り腐っている医師もいますが)日本のように患者様と言う感じで、平身低頭に対応してくれることはまず皆無だと思ったほうが良いと思います。これは別にインドだけでなく、特に海外では当たり前で驚くまでもないと思います。
そんなわけで、自分の治療方針が絶対と思っている医師も少なくないので、万が一どう考えても「違うかな?」と思えば納得できるまで聞いてみるというのも1つですが、無駄な議論をせずに他の医師を当たるという選択肢を持っていれば、気分もずっと変わると思います。
必ず付いてくる同伴者
さて、私たち日本人からしてみれば子供でない限り、又はよほど深刻な事態でない限り、大の大人が一人で医師に罹るというのはすごく当たり前のように思えます。
そして、この同伴者たちはこちらが何も言わなければ平気で診察室や治療室へもついてきます。同伴者は患者と共に医師からの説明をうけ、中には治療中でも横にベタっと張り付いて治療を見張っているようなケースもあります。
私が観察している限りでは、もれなく同伴者がいる理由はいくつか考えられるということが分かってきました。
1つ目は、なんといっても治療費の問題。インドは自由診療ですから治療費もクリニックによって様々です。特に奥さんや子供が医師に罹る場合はたいてい旦那さんが同伴し、最終的には治療の内容とその金額を聞き、金額面でオッケーであれば治療に入るというような流れが多いようです。
2つ目は治療にミスがないか見守っているつもりというケース。インド人はとてもフレンドリーな国民として認識されることも多いですが、実際インド人同士はお互いを信用しない人も多く、見張っているタイプの患者さんは医療ミスを起こさないかと観察しているように思います。特にこのケースは抜歯の患者さんの同伴者に多いように思いますし、実際に抜歯後は患者さんと同伴者に抜歯した歯を見せるのは、必須という流れになります。
最後のタイプもインドあるあるの1つで無意識の凝視人です。これは、とりあえず一緒にいたいタイプで本人は無意識のうちに他人のことを凝視している方々です。インド人は街中で男性同士でもベタっと距離感が非常い近いことがあります。友人ですらここまで距離が近いのだから家族の一員となればさらにベッタリです。なので、患者さんも同伴者も無意識のうちに引っ付いてきて医師とのやり取りをジーっと凝視しているというタイプです。
患者さんの種類
特に女性に多いのですが、抜歯となるとまるで命がけで挑む!という雰囲気の方もおられます。そんな方に抜歯を施すとなると説明を含めた準備だけで半日。抜歯を施して帰宅されるまで半日。終日クリニックの診察台を占拠したままなんてこともあり得ます。そんな患者さんは抜歯を施す前の麻酔の段階から今にも殺されるかのような悲鳴をあげ、抜歯となるとギャーギャー騒ぎながら医師の手を払いのけようとしたり、押さえつけている助手の手をギューッと握り続けたり、さらには抜歯後に噛みしめるコットンで嗚咽をもらしたり。もう横で見ている私が恥ずかしくなるくらいの騒ぎっぷりです。
男性では普段から噛みタバコをしているせいで歯がまっ茶と言う方も多いです。基本的にインド人は歯科医に罹るにあたり歯を磨いてから来院するということはまずあり得ませんから、治療する側からしたらたまったもんじゃありません。
最後に高齢者にありがちなのはうがいの水を勢いよく飛ばしすぎて思い切り枠外へ飛び散らかすタイプです。そんな瞬間横を通ろうものなら大惨事になるので、現場の人間としては要注意です。
こんな医者には要注意!
まず、コンサルティングをきちんとやってくれない医師はやめましょう。
コンサルティングの段階でレントゲンを見せてくれたり、診療方針をある程度モジュールを利用して説明してくれない医師は不必要な治療が知らない間に追加されることがあり、こちらが知らない間に請求額が膨れ上がる可能性があります。逆に、コンサルティングの段階でも金額を含めこちらの要望をある程度聞いてくれたり希望に応じてくれる医師は信頼できると思います。
この手の医師は技術が追い付いていないタイプで、他のクリニックからパートナーや臨時の医師などを呼び寄せて治療をするタイプです。もし看板や名刺にDental Surgeonと書かれているにも関わらず、このような対応をする医師には要注意です。
最後に日本に比べてインドはインプラントが非常に安価で行えるため、インドでインプラントをする日本人もおられると思います。そんなときは必ずそのクリニックの看板の有無や医師の実績を確認しましょう。インドではインプラント供給会社の営業マンが、医師と組んでクリニックを開院しているケースがあります。
出来ることならば海外で医師に罹るようなことがないのが一番ですが、やむを得ない場合もあると思います。そんなとき、少しでも知恵があれば気持ちに少し余裕がもてたりトラブルを回避出来たりすると思います。