TPP、EPA、FTA、そして前回ご紹介したRCEP
これらはまとめて「経済連携協定」や
「自由貿易協定」などと訳されますが
日系企業にとって重要なのは
輸出入にかかる関税の免除もしくは軽減措置
すでに、インドでも多くの国との協定が締結されており、
例えば、ASEAN10か国との間にはFTAが(2010年1月に発効)
日本との間にはEPAが(2011年8月に発効)締結されています。
これによって、輸出入の際に通常適用されるWTO規定の関税率ではなく、
特定の品目を除くその他全ての物品において
関税の免除、もしくは、軽減税率を利用できるようになります。
さて、インドに進出する製造業の日系企業にとっては、
必要な原材料や部品等をどれだけ現地調達(インド国内で仕入れること)できるかが
製造コストを削減するために最も重要なポイントになります。
例えば、ここ南インド・チェンナイ近郊に工場を持つ日産自動車が
自動車部品を製造している下請企業に対してチェンナイに進出してきてほしいと願うのは
日本や東南アジア諸国から部品を輸入する代わりに、インド国内で調達することによって
輸入関税やその他の輸入にかかる物流コストを削減できるからです。
ただ、現実的にはある程度をインド国外からの輸入に頼らざるを得ないわけですが、
このEPA/FTAにもとづく輸入関税の免税や軽減措置を活用していくためには
各国と締結している協定の内容を理解し、適用を受けるための準備が必要になります。
ここで問題になるのが「原産地規則」というルールです。
つまり、EPA/FTAにもとづく輸入関税の免除や軽減措置は
この「原産地規則」を満たした場合にのみ適用される、というルールです。
これは、他国を経由させて輸入(迂回貿易)したらダメですよ、というもので
例えば、他国の原材料を輸入する場合に、
意図的に日本を経由させてインドへ輸入しても
日本から輸入したものとは認めませんよ、
ちゃんと日本が原産地であることを証明して下さいね、というルールです。
原産品であることを証明する「原産地証明書」というものは
日本では商工会議所がその発行機関になっていますが、
一般的に、「原産品」であることを証明するための評価基準とされるのが
「付加価値基準」と「関税分類変更基準」の2つです。
そして、この基準が各国の協定によって異なっていることが
日系企業のグローバルサプライチェーンを管理する上で障壁となっているようです。
「付加価値基準」とは、
例えば、2,000円で輸入したもの加工して2,500円で輸出する場合、
20%(500円/2,500円)が付加価値比率として認識されますが、
この付加価値比率が○○%以上であれば「原産品」として認めます、というもの。
一方で、「関税分類変更基準」とは、
「HSコード」という貿易品目を分類するための世界で統一された6桁の番号
輸入時のこの番号が、輸出時の番号と異なれば「原産品」として認めます、というもの。
例えば、液晶画面(HS-8471.60)とハードディスク(HS-8471.70)を輸入して
パソコン(HS-8471.30)を製造して輸出した場合、
HSコードの下2桁が変更するため「原産品」として認めますよ、となるわけです。
(国によっては、上4桁も変更しなければならない、とする協定もあります。)
EPA/FTAには、これら2つの基準のどちらかを満たせばOKとする協定が多いのですが、
インドとの協定では、原則、「35%以上の付加価値」かつ「関税分類変更基準」
両方の基準を満たさなければならず、他国には類を見ない厳しい条件が課せられています。
ここで、前回ご紹介したRCEP(アールセップ)に期待が寄せられています。
また、このRCEPの発効によってもし統一した「原産品」の判定基準が整備されれば
今後の日系企業のグローバルサプライチェーン管理が改善されるかもしれません。
例えば、日系メーカーが、タイで部品の製造を行い、インドへ輸出している場合、
これまでは、その部品をタイからインドへ輸出する際に、
その部品がタイの「原産品」であることを証明しなければならず、
タイ国内において「35%以上の付加価値」と
「関税分類変更基準」の両方を満たさなければ、
通常のWTO規定の関税を支払わなければなりませんでした。
しかし、RCEPが発効され、インドを含む広域経済圏が形成されると、
日本、タイ、インドがひとつの締約国内として認められるため、
付加価値基準においては、日本及びタイで発生した付加価値の累積で満たせばよく、
関税分類変更基準においては、締約国内におけるHSコードは同じでも問題ないため、
比較的簡単に2つの基準を満たすことができるようになることが考えられます。
製造業の日系企業にとっては特に
今後のグローバルサプライチェーンのあり方を変える
重要なインパクト持つ可能性がありますので注意が必要です。
(オフィスから徒歩3分のヨガスタジオにて↓)