1. はじめに
「投資」という言葉を聞いて、皆さんはどのようなことを最初に思い浮かべますか?「なんか、難しそう…」 ・ 「株式投資や不動産投資があるよね!」など、人それぞれ違った考えを持っていると思います。私も以前までは「投資」が何かと聞かれても、ざっくりと「お金を動かして稼ぐこと」といった確信をつかない回答をしていたことでしょう。
しかし、インドでインターンシップ活動している今では、「投資」という言葉について自分なりの定義を持っています。どうせ、最近知った言葉を空っぽの頭で理解して並べただけでしょ…と思われるかもしれませんが、残念ながら違います。
私は「投資」という言葉を「今後成長が期待されるモノ・ヒト・コトに対して自らリスクを負い、時間の経過と共にその期待値を回収する行為」というように定義しました。
この定義のポイントとしては「今後成長が期待される」ということが重要で、すでに成長している物事に投資をしても、一応利益は出るかもしれませんがワクワクはしませんよね。結局リスクを負うのであれば、期待値の大きい方が優れた投資であると言えます。
2. インド市場の経済成長
そこで、私は皆さんに優れた投資先の一つとして「インド経済の成長と可能性」を考慮してほしいと考えました。私も、インド市場に身を置いている一人であり、自分の時間と労力を使いこれからの成長に期待を寄せています。この選択は非常に大胆なものだったと思いますが、実際にインドで生活している今では、現地の経済成長を肌で感じることが何にも代えがたい自己投資であると確信しています。
事実、近年におけるインドの実質GDPは推定6.9%で順調に拡大しています。この要因としては、約14億の人口(平均年齢27.9歳)に裏付けられた堅調な内需、政府のインフラ推進に後押しされた投資活動、高所得者を中心とした民間消費など様々です。(*2)
(*3)
これらの要因は、すべて事実と人口動態の予測に基づいているため、非常に信憑性は高いと言えます。このように、近い将来、経済大国になると予想されるインドですが最も注目すべき点は驚異的なエンジニアの数ではないでしょうか。
インド工科大学(IIT)を筆頭に国内の工学・技術分野の大学では、毎年多くのエンジニアを輩出しています。その数は毎年約70万人にも及び、高度IT人材だけに限った話では、約10万人が卒業生として世界のIT分野に飛び立っています。(*4)
現代におけるグローバル経済のトレンドを考えると、英語を話せる高度IT人材が非常に多いインドへの投資することは、“相手のカードが丸見えのババ抜き”くらい勝ちが予測できるものであると私は考えます。
ここまでの内容で、インド市場における様々な魅力は知って頂けたでしょうか。では、実際にインド国内で成長が期待されている産業を3つ私の見解でまとめたので、それぞれの特徴と将来性に触れながら考察していきましょう。(*5)
3. インドの再生可能エネルギー産業
再生可能エネルギーとは
再生可能エネルギーの定義ですが、私は「消費されるよりも高い割合で補充される自然資源に由来するエネルギー」というのが最適ではないかと考えます。例を挙げると、太陽光や風力は、常に私たちの生活を取り巻いており補充することが出来ます。このような再生可能エネルギーは環境への影響が少ないため、別称でグリーン・エネルギーとも呼ばれることがあります。
また、現在、再生可能エネルギーはグローバルマーケットにおいて、化石燃料(石炭、石油、ガス)のような再生不可能な資源と比較して、3倍近い雇用を生み出しています。(*6)(*7)
インドにおける将来性
インドのエネルギー需要は、その巨大な国土・人口、急激な成長・発展から、今後数十年の間に他のどの国よりも増加すると予想されます。インドの電力省によると、2030年までに500GWの再生可能エネルギーで電力需要の50%を満たすことが見込まれており、政府としては、2070年までにネット・ゼロ・エミッション(温室効果ガスの実質的な排出をゼロにするプロジェクト)の達成を目標にしています。
さらに、2014年以降から現在までの間におよそ8兆円の投資が行われており、2022年の再生可能エネルギー投資と計画の調査では世界第3位に選ばれています。(*8)
※ 1GW 「約200,000世帯の電力需要を満たすことが出来る」
インド国内の主要なプレイヤー
ReNew
ハリヤナ州グルガオンに本社を構えるReNew社は、風力と太陽光を利用した再生可能エネルギーの開発を行っている企業で、2011年の創業以来、この分野で大きな成長を遂げています。同社は現在、開発中のプロジェクトを含め13GWを超える再生可能エネルギー基盤を有しており、2019年には、インドで初めて(世界では10番目)の設備容量5GWを超える企業となりました。
Suzlon
マハーラシュトラ州のプネーに本社があるSuzlon社は主に風力資源を利用して非従来型エネルギーを生産している企業です。同社は様々な州でリサイクル・ミッションを実施しており、風力発電所の数はおよそ100か所にも及びます。独自のビジネス戦略としては、「end to end」という、風力エネルギープロジェクト開始、設置、メンテナンスに至るまで、あらゆる側面をカバーするアプローチを取っています。
Tata Power Solar Systems
カルナータカ州のバンガロールに位置するTata Power Solar Systems 社はインド国内の自動車会社として広く知られるTataグループ傘下の再生可能エネルギー企業です。同社は主に風力発電と太陽光発電の分野で事業を展開しており、2020年に“Rooftop Solar EPC Company of the Year”という産業部門で金賞を獲得しています。(*9)
4. インドのAI産業
AI (人工知能)とは
AIとは一般的に、「人が実現する様々な知覚や知性を人工的に再現するもの」という意味合いで理解されます。しかし実際には、AIに対して一意に定まった定義があるというわけではありません。というのも、AIはまだ発展途上にあり、あらゆる課題に対応できる汎用的なAIを実現することは研究者の大きな目標になっています。
近年、AIに関する話題は後を絶たない状況にあり、その要因としては「チャットGPT」の普及によるところが大きいと思われます。「チャットGPT」は第三世代のAIと言われており、順を追って説明すると、第一世代が専門家の持つ経験則をベースに人の知的作業を支援するAI、第二世代が統計/探索モデルによって最適解を発見するAI、そして、第三世代が人間の脳神経回路を参考としたアルゴリズムで「ディープラーニング」を可能とするAIのことです。
「ディープラーニング」は、コンピューター自身が膨大なデータを読み解き、そこに隠れているルールや相関関係などの特徴を発見することで、自律的に“意味”や“概念”をもあぶり出していく技術になります。 (*10) (*11)
インドにおける将来性
インドのAI市場はSOER(State of the Education Report)によると、年平均成長率が20.2%に達し、市場規模としては2025年までに約1兆円にもなると予想されています。AI関連の新興企業も、2000年から2022年までの間で約14倍に増加しており、今後もあらゆる産業・分野でAI技術が浸透していくことが推測されます。(*12)
また、インド政府は2020年に「人工知能国家戦略」(National Strategy for Artificial Intelligence)の草案を発表しました。主にChat AI、NLP、ビデオ解析、疫病検出、詐欺防止といった分野で優れた技術力を有しており、インド国内だけで約2000社のAIに特化したスタートアップ企業が存在するため、2022年にはアジア太平洋地域におけるAI導入国で第一位に輝いています。
インド国内の主要なプレイヤー
Tata Elxsi
Tata Power Solar Systems社と同様、バンガロールのホワイトフィールドに拠点を置く Tata Elxsi 社は、Tataグループ傘下のAI関連企業です。同社は、自動運転技術からビデオ解析分野までAI分析を活用した幅広いビジネスを展開しています。Tata Elxsi社のAICoE( Artificial Intelligence Centre of Excellence )では、独自のクラウドベースを元に、専門知識を持つエキスパートが様々な顧客に対してAI及びML領域の戦略的コンサルティングを行っています。
Bosch
ドイツ企業のBosch社はインド国内に数多くの開発拠点を所有しており、AI技術を駆使したモビリティ、産業機器、エネルギーの分野でトップクラスの企業です。ハードウェア・ソフトウェアのどちらにも長けており、企業向けのB to Bサービスも提供しています。開発拠点のAIセンターでは、在庫管理、需要予測、梱包サイズの最適化など、サプライチェーンマネージメントに関する課題でのAI活用も現在行われています。
Kellton Tech Solutions
Kellton Tech Solutions社はテランガナ州のハイデラバードに本社を置く、グローバルIT企業です。米国、ヨーロッパ、インドに開発センターがあり、これまで「テクノロジーで無限の可能性を提供する」という創業時のビジョンを貫いてきました。事業内容としては、ITソリューション、戦略コンサル、製品開発などで、様々な産業のスタートアップから大企業までを対象にサービスを展開しています。(*13)
5. インドの半導体産業
半導体とは
物質には電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」があり、半導体とは、その中間の性質を備えた物質のことです。また、トランジスタ、ダイオードなどの素子単体で構成されるICチップのことを総称して、半導体と言うことも多々あります。
現代を生きる私たちの生活には必要不可欠な存在であり、例えば、エアコンの温度センサー、パソコンのCPU、スマホ・テレビ・照明などのLEDも全て半導体が使われています。インターネット、ATMなどのような社会インフラも、半導体によって支えられており、今後、IoTやAIの普及がより活発になれば、それに伴って半導体が担う役割はより大きなものになります。(*14) (*15)
インドにおける将来性
モディ首相をはじめとするインド政府は、半導体産業の重要性をとても強調しており、国内における製造力を高めることで、世界的な半導体産業でのインドの地位を確立しようと考えています。国内の消費額予想を見ても、2026年までにおよそ10兆円規模に成長することが分かっており、これはインドが抱える14億もの人口によるところが大きいと思われます。(*16)
これまでのインドの半導体事業は、基幹部品であるチップの製造に必要とされる綺麗な水や電力の供給が整備されていなかったため、国内需要のほとんどを中国や台湾などからの輸入に頼っていました。しかし、今後のインドの経済成長を考えると、製造業の弱さは経済成長の加速を妨げる、いわば“アキレス腱”となるので、インド政府は国を挙げて半導体事業に乗り出そうとしているのです。(*17)
インド国内の主要なプレイヤー
HCL Technologies
ウッタル・プラデーシュ州のノイダに本社があるHCL Technologies社はアプリケーション開発、インフラ管理、ITコンサルティングなどを主な事業としており、グローバルに展開しているIT企業です。2019年にインド有数の半導体企業であるSankalp Semiconductorを買収し、半導体企業としても過去5年間でCAGR(複合年間成長率)は127%を維持しています。
Dixon Technologies
HCL Tech同様、ノイダに拠点を置くDixon Technologies社は家電製品、携帯電話、セキュリティー監査システムを取り扱っているインドの電気機器製造サービス分野を代表する企業です。インド国内の3つの州に18の最先端製造施設を保有しており、5年間のCAGRは381%にも及びます。
NXP Semiconductors
NXP Semiconductors社は、オランダのアイントホーフェンに本社を置くグローバルIT企業で、事業としては自動車、モバイル、通信業界向け半導体の供給を行っています。2006年にヘルステクノロジー企業のPhilips社から独立した同社は、50年以上に渡ってインドで事業を展開しており、2021年にはS&P500指数に採用されました。(*18)
※ CAGR 「複利の効果も考慮して計算された、複数期間の平均成長率」
6. まとめ
以上3つが、私の考えるインドの注目産業です。全体を通して見ても、やはりIT系の技術が必要になる分野が多いことが分かります。インドにおいては、これらの分野で需要と供給がバランス良く満たされているため、国内だけでも急成長を遂げる可能性があります。人材不足が顕在化している日本からすると、羨ましい限りではないでしょうか。
GDP成長予測にもある通り、今後30年でインドの経済は驚異的なスピードで成長すると予想されます。もし、読者の皆さんの中に「ビジネスで成功したい!」と思っている方がいるのであれば、数年後の世界では「インディアン・ドリーム」が主流になる時代が来るかもしれません。
【本記事の参考サイト一覧】
(*1) World Bank Revises India’s FY23/24 GDP Forecast to 6.3 Percent (rprealtyplus.com)
(*2) India Overview: Development news, research, data | World Bank
(*3) How India could rise to the world’s second-biggest economy (goldmansachs.com)
(*4) How Many Engineers Does India Produce? | by Sajith Pai | Medium
(*5) 5 Future Industries in India That Have High Demand – Blog by Tickertape
(*6) What is Green Energy? How does it Reduce Pollution? Examples (indiaenergyportal.org)
(*7) What is renewable energy? | United Nations
(*8) Solar Panel Making Company In India, Solar Companies In India | IBEF
(*9) Top Renewable Energy Companies in India (altilium.co.in)
(*10) 10 Best AI Image Generator Tools to Use in 2023 – Analytics Vidhya
(*11) 人工知能(AI)とは | NTTデータ – NTT DATA
(*12) Future of Data Science and AI in India | IBEF
(*13) Best Artificial Intelligence Stocks in India 2023 (groww.in)
(*14) 半導体製造装置の市場~世界シェアと日本国内の主要メーカーについて~ – 日本ポリマー株式会社 (nihon-polymer.co.jp)
(*15) 暮らしの中の半導体 : 日立ハイテク (hitachi-hightech.com)
(*16) India’s Next ‘Big Push’ Towards Semiconductor Industry (investindia.gov.in)
(*17) 半導体競争にインドが参戦 人口世界一の国は何を目指す? | NHK | ビジネス特集 | 半導体