1.はじめに
日本は素晴らしい国である!現在、私はインドでインターン活動をしており、国外で活躍する多くの日本人の方が口を揃えて、このように日本を評価している気がします。
まさに、文化や技術の面において、日本は世界トップクラスです。これは、日本人だけでなく外国人の意見でも同様だと思います。
しかし、経済全体を見ると、自信をもって「日本は大丈夫だ!」と言えるでしょうか。これまでの平均所得の推移、GDP成長率の低さ、そして将来の人口減少などの数値を考慮すると、どうしても今後の日本を安泰だと思う人は少ないはずです。
しかし、今回の記事では、漠然と感じる日本の不安要素に焦点を当てるつもりはありません。なぜなら、「すでに日本のヤバイ現状を感じるフェーズは済んでおり、これからは今ある日本の強みと弱みを理解し補完することで、どのような未来を築いていくか」という視点が必要だからです。
そして、衰退する日本国内だけでキャリアやビジネスを築くことは得策ではない今、読者の皆さんにはこの記事を通して、グローバル市場を見据えた“インドとの共同戦略”について理解して頂きたいと思います。
このアプローチは、起業家や経営者だけでなく、皆さん1人ひとりのキャリアを考える上でも重要です。インドという一風変わったスパイスがあるだけで、日本における評価のされ方が大きく変わる可能性があります。
私がインドで会った人や触れてきた情報をもとに記事を書いていますが、これが正しいというわけではありません。ただし、皆さんの意識を海外に向けるために、騙されたと思って一度読んでみてください。日本の強みを生かし、未来に向けて新たな可能性を見出すための一助となれば幸いです。
2.インドの強みは何なのか
ではさっそく、なぜインドがグローバル市場における日本のパートナーとして適しているのかを解説していきたいと思います。
以下にインドのアドバンテージを2つ、私なりの考えでまとめました。共同戦略と言うからには、やはり、お互いの国について理解を深めなければ、本来の力を発揮し合うことは出来ません。
パートナーとの円滑なコミュニケーションを図るという意味でも、何が出来て何が出来ないのか、どこを補い合えるのかを、皆さんも経営者の目線になって考えてみてください。
IT領域のリーダーシップ
1つ目の長所は、凄いスピードで進化を続けるテクノロジーの領域において、インド人が過去から現代、未来に至るまで、長い間リーダーシップを取ってきており、これからもその状態は変わらないということが挙げられます。
メディアなどで取り扱われる情報だけだと、どうしてもインドはここ数年でIT領域に明るい国になったように捉えてしまうかもしれません。
しかし、実際はアメリカのシリコンバレーが1970年代から本格的に成長していた時代も、下の資料で分かる通り、大手テクノロジー企業を支えるIT人材は約70%が移民としてアメリカに移り住んだインド人でした。
(*2) Visualizing the Data Behind America’s H-1B Visa Program
(*3) : Chart: Indian Talent Is in High Demand in the U.S. | Statista
もちろん、日本にもハードウェアとソフトウェアのどちらの分野でも、優秀なエンジニアはいると思います。しかしながら、インド国民全体の圧倒的な数と若さは強大で、国家戦略として今後もIT領域に特化した人材が増えていくことでしょう。
グローバル市場における柔軟性
2つ目に、グローバル市場における柔軟性にいてインドは他の国々と比べても長けていることが挙げられます。
私が考えるグローバル市場における柔軟性とは主に3つで、スピード、資金、人材の充足を意味しており、“ジュガール”という考え方が染みついているインド人は日本人に比べて、ビジネスを展開するスピードが速いと言われています。
これは、何かの研究結果をもとにした主張ではありません。完全に私の経験から述べているので、今後自分がビジネスを始める過程で実際はどうか確かめたいと思っています。
そして、資金に関しては世界のスタートアップ投資ランキングでアメリカ・中国に続き世界第3位に名を連ねるほど、十分な資金がビジネスに投入されており、企業の有望度次第で相当な額の出資を受けることが出来るでしょう。(*4)
また、ここでいう人材にはIT領域に強いという要素以上に、大学を卒業するほとんどの学生が仕事で使えるほどの英語力を身に着けていること、そして、世界中にいる大手企業のCEOやそれらの会社の重役を担うインド人の存在が含まれます。
(*5) : Why America’s Tech Giants Are Hiring Indians As Their CEOs | TechSathi
やはり、同郷の民族が世界中にいるということはグローバルにビジネスを展開していく際、非常に大きなアドバンテージになります。私が現在インドでインターン活動を出来ているのは、やはり日本人コミュニティーの存在が大きく、バンガロールというIT都市は今後も日本から来る学生が増えていくと思われます。
これらのような事実と経験から、インドという国が持つ世界経済への影響力は既に世界トップレベルであること、これは間違いありません。
※ ジュガール 「限られた資源や状況下での柔軟かつ即座な問題解決」
3.日本の強みは何なのか
一方で、私たち日本人が持つ強みとは何なのでしょうか。正直、ここまででインド人の優秀さに少し押され気味の方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、日本もバブル期絶頂の1989年頃には、世界の時価総額ランキングで10社中7社を占める程だった国です。現在は、最上位のトヨタで39位の2310億ドルですが、少なからず世界1位を取れるほどの強みはあると思います。
なので、悲観的になるのは止めて、私たち日本人の得意な部分で勝負していきましょう。以下で、私が考える日本の強みを2つまとめたので、インドをパートナーとした時にどのように協力していけるかイメージしながら見て頂きたいです。
グローバルで信頼される完成度
まず、「商品やサービスの完成度」において、日本は世界トップクラスだと言えます。読者の皆様でも、共感して頂ける方は多いのではないでしょうか。
海外から日本を見ると、特に日本の商品やサービスは素晴らしいと感じることが多く、それは外国人の方の目から見ても同じだそうです。(*6)
2018年12月に世界20カ国・地域で実施した「ジャパンブランド調査2019」では、約80%の日本製品を購入した人が、「日本製品は優れている」と回答する結果になりました。
(*7) : Made in JAPANは強みになるか?~日本ブランドの今とこれから~
また、同調査で行われた日本製品に対するイメージの質問でも、ほとんどの全てのエリアでハイテク・高性能・信頼できるといった評価を受けています。
(*7) : Made in JAPANは強みになるか?~日本ブランドの今とこれから~
これらの調査は、まさにMade in Japanのブランド力を物語っており、個人的にアニメや日本食が人気な理由も、突き詰められた美しさや繊細に人の情緒などを描いた描写にあるのではないかと思っています。
加えて、日本のサービスといえば、“おもてなし”という流行語でも同じように、単なるサービスの提供を超えて、その人のニーズや期待に真摯に応えようとする姿勢が評価されています。
全ての人がこのように考えている訳ではないかもしれませんが、少なくとも私はアルバイトとして働いていた居酒屋でも、食事に来た方々には素晴らしい体験と時間を過ごしてもらえるよう試行錯誤していました。
正直なところ、バイト中にスマートフォンを触らないといったことが当たり前に出来ているだけでも、他の国に比べると圧倒的なパフォーマンスだと思います。
これらのような日本人的価値観はやはり、グローバルでビジネスする際も重要になるのではないでしょうか。
徹底的なプロジェクト管理
そして、2つ目に品質の確保や期日通りの計画実行など、徹底的なプロジェクト管理が日本の強みであると言えます。
こちらも、1つ目の強みとして挙げた、「日本の商品やサービスの完成度」に繋がる部分はあるかもしれませんが、プロジェクトの細部まで検討され、スケジュールや予算を守ろうとする生真面目さは世界の国々と比べても評価せざるを得ません。
このような生真面目さに見られる、日本人的特徴の背景には、「心配性の人が多い」という日本独特の傾向が根本にあるとされており、以下のBooking.comが2020年に行った調査では、COVID-19が広がっていた時期に「再び旅行に行けるようになったらどう思うか?」という質問がされています。
(*8) : Booking.com Japan K.K.のプレスリリース
これらの数値を見ていくと、アメリカやフランスをはじめとする海外諸国と比較して、明らかに日本では不安や心配といった感情を抱いていることが分かります。
諸説によると、地理的に地震や台風など震災の多い日本では、他の国に比べて生活を脅かす心配事が多かったので、遺伝子的レベルで他者との集団行動や事前の準備必要とする考えに至ったと考えられています。
また、日本の完成度を重視する価値観は、仏教の教えにあるような“自らの悟りを追求する”武士道的考え方が関係しているとも言われています。
日本の独自の文化は、歴史や社会的な様々な要素が絡み合って形成されています。改めて注目すると、日本人は非常に興味深く、同時に経済的な観点から見ても世界有数の国として存在感を示していることは必然なことだと思えたのではないでしょうか。
4. インドと日本のSWOT分析
そして、インドと日本という両国の強みを認識できた今、私たちは共同戦略の可能性を模索するため、逆に弱み、つまり課題をも理解しなくてはなりません。
お互いの得意と不得意を補い合うからこそ、そこに新たに価値が生まれ、既存のポテンシャルを最大限発揮することが出来ます。
1度インドと日本を一つの企業としてSWOT分析に当てはめてみましょう。SWOT分析とはStrengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の頭文字を取ったもので、これらの要素を分析して組織の状況を理解する戦略的思考法です。(*9)
インド企業のSWOT分析
インフラストラクチャの不足
インドの一部の地域では電力、水、通信などの基本的なインフラが整っていないため、ビジネスの拡大に制約が生じてしまいます。特に、安定した電力と綺麗な水の供給が不安定な場合、製造業においては最も重要な工場が真面に稼働しません。
半導体やロケット開発などの可能性に溢れた領域で、後れを取らないためにもインド国内におけるインフラの整備は急ピッチで進められるでしょう。
労働市場の激しい競争
豊富すぎる人材は、時に企業内部から崩壊を招くことがあります。まさにインドは、その圧倒的な人の数を十分に賄うだけの雇用が生まれていません。統計データを取り扱う企業Statistaによると、2023年におけるインドの工科大学を卒業した学生の就職率は57%で、約4割の学生が就職難に陥っています。
給与水準も比較的に高くないので、インド国外との連携により外資系企業の誘致を図るという方針も打ち立てられています。
規制環境の複雑性
インドは連邦制度であり、中央政府と各州政府が独自の法律や規制を制定しています。このため、特定の法令が州ごとに変わるのは一般的で、ビジネスが複数の地域で展開される場合は、異なる法的要件に適応しなければなりません。
税制の面でも、GST(Goods and Services Tax)の導入による一本化は進んでいますが、依然として中央および州レベルの異なった税法により税務の複雑さは残っています。
日本企業のSWOT分析
過疎化と高齢化による人材不足
私たち日本人であれば日々感じる、日本の人口減少です。平均寿命の延長と低い出生率の影響で、労働人口の減少が懸念されています。特に専門分野において優れたスキルを持つ労働者の確保が難しくなっており、東洋経済による調査では2030年までに約80万人のエンジニアが不足すると予想されています。
外国人に対して閉鎖的な考えを抱きやすい日本では、外国人労働者を技能実習生という形で受け入れていました。しかし、その環境は賃金の低さや社会的孤立などの視点を考慮するからに、お世辞でも良いものとは言えません。
慎重すぎる意思決定
日本人の慎重すぎる性格により、意思決定の遅延や創造性とイノベーションの妨げなどの弱さが浮きだっています。過度な情報収集や分析は、競合他社に対する迅速な対応の欠如を是正する可能性があり、市場の成長を見逃すことも多々起こります。
事前のリスク回避や組織の安定性という面では、この慎重さが武器になるかもしれません。しかし、グローバルな市場で競い合うにはそのバランスを考える必要があるでしょう。
国内中心のビジネスモデル
これまでの日本のビジネスモデルは、一般的に内需の強さから日本国内での事業展開が多い傾向にありました。世界中で人気の日本製品に関しても、ファーストステップは日本のマーケットシェアを増やす、そして海外という流れだったと思います。
しかし、人口減少やグローバル化で日本国内の需要だけでは立ち行かなる日もそう遠くありません。特に、言語の壁がある日本では一刻も早く、実用英語とコミュニケーションの機会を設ける必要があります。
5. 共同戦略の可能性
これらのような、インドと日本の弱点を理解した上で2か国間の共同戦略を考えると、以下のような2つの戦略が効果的かもしれません。
インドの超優秀層との共同戦略
IIT(インド工科大学)やIIM(インド経営大学)などを卒業した、技術者及び経営学修士課程を終えた超優秀層は、高いスピード感と新規事業を立ち上げる力を持っています。戦略策定やゼロイチの垂直立ち上げを、優秀なインド人に任せることで迅速な市場参入が可能になることでしょう。
一方で、顧客のニーズ把握、プロジェクト管理、サービス・製品の仕上げを日本人が担当することで、お互いの強みを活かしたチームを構成することが出来ます。
両国のメンバーが相互に学び合い、文化の違いやビジネススタイルの相違を理解することで、チーム全体のクオリティも向上するはずです。
Tier2-3以下のインド人ミドル層との共同戦略
この戦略では、低コストのTier2-3以下のインド人ミドル層を活用することで、価格競争力と多数の人材を生かした効果的な事業展開が可能になります。
日本人メンバーが戦略の策定とマネージメントを担当し、時間を掛けてインド人メンバーに対し丁寧なフィードバックを行うことで、持続可能なビジネスモデルの構築が出来ます。
変化する市場や競合の状況に柔軟に対応していけば、戦略の変更を行ったとしても企業の崩壊に繋がることは少ないでしょう。
6. まとめ
この記事では、日本とインドのグローバル市場で共同戦略を築くことの可能性に焦点を当て、グローバル市場におけるチャンスはどこにあるか考察してきました。個人的にもお互いの国の特徴を分析できたことで、より鮮明なビジネス戦略を考える良い機会になったと思います。
日本の完成度の高い商品やサービス、徹底的なプロジェクト管理能力は世界的に評価されており、これらを活かすことで新たな価値を創造できることでしょう。
一方、インドはその高度人材の豊富さと、失敗を恐れないメンタリティーの強さで今後も世界の中心として役割を果たしていくと思います。
インド人であれば『熾烈な競争社会を生き抜いてきた』という背景、日本人であれば『徹底的な集団管理を体に叩き込まれてきた』という背景があります。そのような他者のバックグラウンドを理解しあってこそ、共同戦略の価値も高まるのではないでしょうか。
※本記事の参考サイト一覧
(*1) India-Japan cherish strategic ties based on shared values: MoS MEA in Tokyo (business-standard.com)
(*2)Visualizing the Data Behind America’s H-1B Visa Program (visualcapitalist.com)
(*3)Chart: Indian Talent Is in High Demand in the U.S. | Statista
(*4)Indian Startup Ecosystem (drishtiias.com)
(*5)Why America’s Tech Giants Are Hiring Indians As Their CEOs | TechSathi
(*6)Why Are Japanese Products So Good? The Secrets of Quality (japanwithlovestore.com)
(*7)Made in JAPANは強みになるか?~日本ブランドの今とこれから~ | ウェブ電通報 (dentsu-ho.com)
(*8)ブッキング・ドットコムで2020年の長期休暇を振り返る! 昨対比で見る宿泊予約傾向を分析して発表 | Booking.com Japan K.K.のプレスリリース (prtimes.jp)
(*9)How To Perform an HR SWOT Analysis – AIHR
(*10)India: employability among engineering graduates 2023 | Statista