マニプール、アッサムとミャンマーを繋ぐ鉄道マニプールメガトレインプロジェクト~建設の期待と影響~

by GangmeiEri

インド北東部州セブンシスターズの1つであるマニプール州は、海抜790メートルに位置しており、四方が山に囲まれています。

GANGMEIERIさん
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右を見ても左を見ても山ばかりのこの地域に2017年3月に移住して来た筆者。今年の1月下旬に、山岳地帯には似つかわしい列車の汽笛の音が響き渡るのが聴こえました。

移住してすぐの頃、義実家のあるこの村では多くの男性たちが20キロ程下った所にある鉄道建設地で働いていました。

ついに、マニプールメガトレインプロジェクトによって、鉄道が同州を走る日がやって来たのです。

ごうぞう
ごうぞう
わ、すごいぞう!

マクル川と周囲を囲む森林

 

 

絶対貧困層が3割以上と言われるインド北東部。マニプール州にはどのような社会課題があるのか?

インドのモディ首相はインド北東部について、「開発の重要な原動力となる地域であり、最早無視される地域ではない」と述べています。

アッサム地方は石油や天然ガスなどの資源に恵まれていることからインド中央政府もその重要性を認めていますが、多くの山岳部族が暮らし、反政府武装組織も存在するマニプールは、部族間の衝突や武装組織による反政府活動がインフラ整備の遅れに加え、産業の成長の足かせの一部になっています。

GANGMEIERIさん
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また、農村部での失業率が高いことも大きな問題になっています。州の7割が山岳部になっており、5つのディストリクト(地区)がこの山岳部のもとに構成されているマニプール州。

この5つのディストリクトの総人口は州の38%を占めますが、山岳部特有の地形が手伝い、青少年たちが満足に働いていける産業形態がゼロに等しいと言っても過言ではありません。就職口がない若者たちは女性は家事手伝いに従事し、男性は日雇い労働などに勤しみます。

GANGMEIERIさん
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さらに、農村部に就職の目処が立たないと必然的に人々は都市部に集まります。現在、平野部であるマニプール州都インパールには州総人口の7割が暮らしているとされていますが、持続可能性の視点から、同じ流れをこの先数十年と続けていけられるかどうかは疑問です。
ごうぞう
ごうぞう
難しい問題だぞう

マニプールは、その雄大な自然や農業セクターに経済的にとても高いポテンシャルがあり、近い将来、更に発展していくと考えられています。今回は、「マニプールメガトレインプロジェクト」によって高まるポテンシャルや、同州に与えたインパクトについて紹介します。

 

マニプールメガトレインプロジェクト~密林地帯に初の鉄道が現れる!

マニプール州都インパールとジリバムの間の広軌鉄道路線は、 それぞれのディストリクトが遠く離れ、起伏のあるこの地域での接続性を改善することを目的とし、インド政府は、2003-04年の予算にこの「マニプールメガトレインプロジェクト」を含めました。

GANGMEIERIさん
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2008年にようやく議会などに取り上げられ、その重要性から「国家プロジェクト」と宣言されています。

2013年に北東フロンティア (NEF) 鉄道によって建設が開始された全長111km のジリバ厶ーインパール鉄道リンクは、既存のジリバム駅から始まり、同州5つのディストリクトの計11の鉄道駅を経由して州都インパールを接続します。

ジリバムーインパール間は、このマニプールメガトレインプロジェクトにより、移動時間が現在の10~12時間から2.5時間に短縮されることが確認されています。

2013年に着工開始したプロジェクトも、来年12月についに完成予定

GANGMEIERIさん
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当初の計画ではインパールまでの鉄道建設計画でしたが、最終的にはマニプールとミャンマーの国境に位置する貿易の要の街であるモレまで拡張する形に変更されました。

 

 

鉄道が敷かれれば経済的に豊かになる?マニプール州のポテンシャルとは…?

インド鉄道省によると、マニプールに鉄道が敷かれれば同州の貿易と経済に大きなインパクトをもたらすだろうと予測しています。

ラニ・ガイディンリウ駅にて。
Photo Credit : N. Biren Singh/Twitter

冒頭にあげた筆者が聴いた汽笛音は、52両のワゴンを備えたマニプール最初の貨物列車から発せられたものです。

この列車によって、グジャラート州リンチから積み込まれた2,652トンの乳製品、塩、豆類、およびプラスチック製品が、同じ鉄道プロジェクトで建設されたアッサム州の新しい鉄道網を経て、アッサム州の既存の鉄道駅グワハティ駅からここマニプールの山岳地帯にあるラニ・ガイディンリウ駅(マニプールの女性Freedom fighterの名から取っている)に輸送されてきたのです。

GANGMEIERIさん
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道路網で輸送される物理的コストを考えると、鉄道網の出現することによって、発生する事業機会が高まるはずです。
ごうぞう
ごうぞう
なるほぞう、このプロジェクトは単に鉄道を作るだけでなく、事業機会に繋がっているんだぞう!

さらに、州の7割以上を森林に覆われているマニプールは、主に農業を基盤とする経済であり、その地形を活かしたマンゴー・バナナ・パイナップル・グァバ・ライチ・イチジク・マンダリンみかんなどの、様々な園芸作物のプランテーションの可能性があると見られています。

山岳地帯の村に植えられたバナナの木

また、マニプール州はインド国内最大のパッションフルーツの生産地です。

他にもマニプールの手工芸品や養蚕業を基盤とする産業は最も発展した産業であり、州の収入にも大きく貢献しています。鉄道開設により、マニプールの生産物などを他州に手っ取り早く安価に輸送することができ、同州の農業セクターや伝統工芸品セクターなどのポテンシャルがさらに高まることも予想されています。

また、北東フロンティア (NEF) 鉄道はインド政府はインド北東部州のすべての州都をインド国内の他州と鉄道によって接続するという狙いがあると述べています。

インド独立より現在まで、様々な理由により、国内外問わず観光客滞在が限られてきたマニプール。

GANGMEIERIさん
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鉄道が敷かれたことにより、以前は乗り合いバンにぎゅうぎゅう詰めになって移動しなくては行けなかった道中も、快適な列車車両に変わるとなると、インド各地を楽しむ旅行者たちにとっても多少は訪れやすい場所になるでしょう。

さらに、このマニプールメガトレインプロジェクトは現地住民にとっても、マニプール各地へのスムーズな接続を促進するという点において大きなインパクトをもたらすことが予想されています

GANGMEIERIさん
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マニプールの人口の約70%が州都インパールに住んでいるため、必要な物資を得るためや仕事などで主に道路網に依存している人々は、インパールと各地をつなぐこの鉄道網を彼らの新しいライフラインとして見なしていくはずです。
ごうぞう
ごうぞう
電車の開通で、大きく変わることが予想されているんだぞう

 

GANGMEIERIさん
GANGMEIERIさん
マニプール州に鉄道が敷かれることにより、同州のポテンシャルが高まることが予想されていますが、実はマニプールメガトレインプロジェクトがもたらしたインパクトは良いことばかりではありません。
ごうぞう
ごうぞう
どんなことがあるぞう?

2022年6月30日早朝、大雨による大規模な地滑りがマニプール州のノネーディストリクトに位置するトゥプル鉄道建設キャンプの場所を襲い、滑り落ちるがれきがイジャイ川を塞ぐという災害に見舞われました。

Hindi Timesより抜粋

主に、鉄道建設の監視にあたっていたインド軍の兵士や鉄道会社の従業員、短期労働者たちが巻き添えになりました。7月20日に救命活動が終了するまで、計61人の死者を出した近年におけるマニプール州最大の自然災害と言われています。

マニプールメガトレインプロジェクトが今回の地滑りに直接的に因果関係があるという証拠はありませんが、様々な証言からこの鉄道建設が地滑りをもたらすほどのインパクトがあったことを物語っています。

マニプールメガトレインプロジェクトでは、山を切り拓いて、土石を掘り起こし、156の鉄道橋に46のトンネルを建設してきました。地滑りが発生した地域周辺には、141mと、世界一高い鉄道橋になるはずの橋が建設されています。

GANGMEIERIさん
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多くの専門家は、地形的な環境アセスメントが十分に行われずに、大規模なマニプールメガトレインプロジェクトを遂行した結果の代償だと謳っています。

地滑りの現場近くに建設中の141mの鉄道橋

 

 

 

 

 

 

 

 

また、マニプールの山岳地帯では、歴史的に焼畑農業が盛んに行われていることで、山岳地帯の土壌が比較的柔らかくなってきていることが挙げられ、焼畑農業が今回の地滑りの原因だと指摘する声もあります。

しかし、この地滑り発生において、地元住民は、彼らが先祖代々暮らす山岳地帯の環境や自然の排水システム、川の流れ、ゆるい土や岩がある場所について塾知しており、彼らは、鉄道建設関係者からそういった住民のインプットを建設開始前に求められなかったと主張しています。

GANGMEIERIさん
GANGMEIERIさん
環境アセスメント実施後も、鉄道関係者は住民たちとの公の協議も行わなかったようです。木々を伐採し、道路をどこに作るか、どのように水を排水するかについての住民たちのアドバイスを決して受け入れず、完全に無視状態でした。

もう1つのインパクトは、マニプールメガトレインプロジェクトの建設予定地に当たるすべての土地所有者に配当される賠償金です。

この鉄道建設プロジェクトの為に広大な土地がインド政府によって買収され、自らの土地を失った現地住民には賠償金が与えられると発表されました。




しかし、地域により、配当額がまちまちであったり、間違った他人に賠償金が配当され、地主の手元に渡った金額は0だったりと賠償金を巡る問題は、マニプールメガトレインプロジェクトの遂行を妨げるためのストライキにも進展しています。

GANGMEIERIさん
GANGMEIERIさん
この鉄道建設のために買収された土地は殆どが焼畑農業などに使われていた場所で、土地主が存在しない土地も含まれており、住民の間でも意見に食い違いが出てくるなどのいざこざが各地で見られました。
ごうぞう
ごうぞう
土地に関わることだから、難しくこういったことも起きるぞう…

 

 

マニプール州を走る鉄道が同州とインドに利益をもたらす未来は来るだろうか?!

マニプールは、例年洪水や地震など数多くの災害が発生しており、その山岳地帯で最も一般的なのは地滑りや土砂崩れと言われています。

それは、マニプールと他の 7つの州で構成されるインド北東部は、世界で 6番目に地震が発生しやすい地域であり、地質学的に、若いこの地域の山岳地帯は地滑りが起こりやすいと考えられているからです。

さらに、マニプールは近年は人口増加に伴い、森林が驚くべき速度で伐採され、土壌も比較的地滑りなどが起こりやすくなってきています。近年における、短時間での集中豪雨などの極端な気象現象も土壌を柔らかくし、地滑りが発生しやすくしているとも言われています。

GANGMEIERIさん
GANGMEIERIさん
今回のような地滑りが今後も頻繁に起こる可能性も高い中、政府も地元住民も同じ方向を見て対処していくことが重要となっていきます

また、同州は大規模な農業を行っているので、土壌が土地に残り、肥沃な頂部が洗い流されないよう、そして結果的に州の最大のポテンシャルである農業活動に支障が出ないようにするためにも対策を講じる必要があります。

山岳地帯での焼畑農業は地形的な制約から地元住民が先祖代々から続けている農法ですので、これが地滑りの原因だと決めつけて非難し、阻止するのであれば、政府は代替農法を模索して提唱する必要があります。マニプールメガトレインプロジェクトによって経済的に利益がもたらされたとしても、持続可能性の視点から、マニプールの土壌や森林を守ることを怠ってしまっては元も子もありません。

GANGMEIERIさん
GANGMEIERIさん
マニプールの土壌や環境を守り、次世代に託していくためにも、政府は専門家と協力して地元住民たちへ情報・技術提供をし、地元住民たちも山岳地帯に孤立し続けるのではなく、率先して協働していく必要があると思います。
ごうぞう
ごうぞう
これもインドのお話だけど、大きな国インドならではのマニプールにフォーカスしたお話だったぞう!そんなマニプールのについては、↓の記事でも紹介しているから、気になったら是非読んでみてぞう!




【これがインド料理!?】未開の地マニプール州山岳地帯のロンメイナガ族の料理を紹介

【部族を越えた団結】多民族州マニプールが目指すべきもの~現代に通ず100年前のFreedom Fightersの志~




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