注目のインド国内スタートアップ3社

by 田中啓介 / Keisuke Tanaka

(1)注目のインドEdTech『Study IQ』がいかにして収益化とユーザー獲得を実現したか?

インドの大手スタートアップメディアであるInc42社の2020年9 月10日付けの報道によると、EdTechスタートアップの『Study IQ(スタディ・アイキュー)』が注目を集めているようです。同社は2014年にテスト対策のYouTubeチャンネルとしてローンチされ、現時点でYouTubeチャンネルの購読者数は849万人に達しています。また今年4月には有料コンテンツを含むモバイルアプリを開発し、2ヶ月後には4万人のDAUs(Daily Active Users:1日あたりのアクティブユーザー)を獲得、現在までに7万人の有料ユーザーを獲得し、収益拡大に成功しています。同社の収益は2017年度の1900万ルピー(約2700万円)から2020年度には1億3000万ルピー(約1億8500万円)と急速な成長を遂げています。2020年度の収益内訳をみてみると、18%がYouTubeの広告収入によるもので、その他の主な収益源はアプリの有料コンテンツからの流入となっています。コース費用は学生の場合、NCERT科目(※1)で1500ルピー(約2150円)からUPSC(※2)準備コースの18000ルピー(約26000円)までで、より高額なコースではEMI(Equated Monthly  Installment:定額月賦払い)のオプションを利用することができます。

Study IQが提供しているテスト対策の科目は幅広く、UPSC、CLAT(Common Law Admission Test:コモンロー入学試験)/AILET(All India Law Entrance Test:インド司法入学試験)、鉄道、SSC(Staff Selection Commission:政府人材選考委員会)、IBPS PO & Clerk(Institute of Banking Personnel Selection:銀行人事選考協会)や保険など政府試験の数多くのコースを提供しています。ユーザーは都市部と農村部に均等に分布していると言われており、ユーザーの年齢層はアプリでは18~29歳、YouTubeでは幅広く40歳くらいまでの層が利用しているとのことです。

インドのユニコーン・スタートアップに対する批判は多く、その主な内容は資金を十分に確保しているにも関わらず収益性が低いことです。インドのユニコーン30社を分析したInc42 Plusの調査によると、インドのユニコーンの約70%がマイナスのEBITDA(※3)という結果でした。インドEdTechスタートアップは投資家の関心を集め、資金調達をするようになりましたが、まだ大きな収益を出せる段階には到達していません。ほとんどのスタートアップは、ユーザーの獲得やブランドの構築に巨額の投資を行っており、EdTechの中でもテスト対策を主としたスタートアップの人気は増えていますが、持続可能性は常に疑問視されています。そんな中Study IQは収益化とユーザー獲得を両立し、今後もますます伸びていくだろうと期待を集めています。YouTubeで1万8000本の有益なコンテンツを無料で見ることができるため、アプリ利用を検討しているユーザーも安心して有料プランに登録することが出来ること、また毎日数百件寄せられる疑問や質問に対してStudy IQの先生がメールやアプリを介して対応しているためユーザーの満足度も高く、口コミでの集客に成功していることが利益率を上げることに繋がっているようです。同社は今後も対応する試験科目を増やしていくと発表しており、ますます需要が高まりそうです。

※1 NCERT:National Council of Education Research and Training(インド全国の中等教育カリキュラムを運営している中央教育研究・訓練機関)

※2 UPSC:Union Public Service Commission(公共事業労働組合)

※3 EBITDA:Earnings Before Interest Taxes, Depreciation, and Amortization(利払い前・税引き前利益+減価償却費の計算式で求められる)

Source:テスト対策アプリのStudy IQに注目集まる

EBITDAで会社の何を知る?

 

(2)インドSMEs向け団体保険サービス『PlumHQ』

インドの大手スタートアップメディアであるInc42社の2020年8 月28日付けの報道によると、中小企業などの団体向けにデジタルインシュアランスを提供するフィンテックスタートアップのPlumHQ(プラム)が注目を集めているようです。同社は2019年11月にバンガロールを拠点に設立され、複数の保険会社とのリベニューシェアモデルをベースにベーシックプランだと従業員1人当たり年間999ルピー(約1450円)からデジタル保険に加入できるプラットフォームを提供しています。

インドは約13億人の人口を抱えており、うち約5億人にあたる貧困層は政府の出す健康保険や医療保障制度の対象となっています。そして、残りの約8億人のうち、上位1億人はすでに大手保険会社や他のデジタルインシュアランスを提供する会社と契約をしていますが、残りの約7億人は自分で健康保険に加入する余裕がないのが現状です。PlumHQはこのセグメントを『Missing Middle(ミシング・ミドル)』と呼んでおり、その中でも約1億5000万人を雇用している中小企業や新興企業(SMEs:Small and Medium Enterprises)をターゲットにしています。PlumHQのCEOであり共同創業者のAbhishek Poddar氏は『個人向け生命保険や自動車保険などの保険市場では、Acko、Policybazaar(ポリシーバザール)、Digit Insuranceなどのフィンテック企業のおかげでイノベーションが起きているが、団体医療保険は過去20年イノベーションが起きていない分野である。』と述べています。また、インドのSMEsが従業員に保険を提供できない理由として1)通常保険の契約に8週間ほどの期間を要するが、中小企業の経営者はこれを待つ余裕がないくらい多忙を極めていること、2)ほとんどの保険会社は、小規模な組織への保険の販売を拒否する傾向にあること、の2つが挙げられるようです。PlumHQは他社が避ける層をターゲットとし、保険料の見積もりもウェブサイトにて約1分で結果が分かる手軽さなどから人気を得ており、現段階で150以上の企業と契約を結んでいます。

PlumHQは保険とは別にウェルネス製品も取り扱っており、同プランではジム、歯科治療、メンタルウェルネスツール、健康診断、セラピーの利用が可能です。また、従業員一人あたり年間500ルピー(約725円)の費用で医師の受診が無制限になるオプションもあります。
Poddar氏によるとインドは世界の中でも健康保険の普及率が特に低い国のうちの1つで、都市部では18%、農村部では14%にあたる人口しか保険に加入できていません。しかしオックスフォード・エコノミクスによると、健康保険の普及率は順調に伸びてきており、2021年までにインドの健康保険による歳入は35億ドル(約3700億円)に到達すると予測されています。実際にインド政府は2018年9月に世界最大規模の医療保険制度、『Ayushman Bharat』を成立させており、国全体として保険の普及率を上げる動きが見られます。またデジタル自動車保険としてサービスをローンチしたAckoや、個人向け生命保険サービスを主力としていたDigit Insuranceも団体保険の分野に参入してきており、今後ますます盛り上がりを見せてくれそうです。

Source:デジタルインシュアランスで注目を浴びているPlumHQ
Plum Website:https://www.plumhq.com/

 

(3)関心が高まる物流テック産業。サプライチェーンの最適化を目指す『FarEye』

インドの大手スタートアップメディアであるInc42社の2020年8 月21日付けの報道によると、ニューデリーを拠点とし、現在シリーズDの物流テックスタートアップである『FarEye(ファーアイ)』は1300万ドル(約13.8億円)の追加調達に成功し、合計調達額が5100万ドル(約54億円)に到達したようです。同社はDHL、Amway、Walmartなどを含む150以上の企業にサービスを提供しており、現段階で20ヵ国以上の国々でサービスを展開しています。
FarEyeは企業とエンドユーザー間のラストワンマイル(※1)の物流サービスにおいて、機械学習を用いることで正確性、効率面、コスト面においてより質の高いサービスを提供することで絶大な人気を得ています。具体的にはリアルタイムで配送状況を確認することのできるサービスで顧客に安心感を与え、同社のカスタマイズ可能なSaaS(Software as a Service)によって3PL(※2)通信事業者のオペレーションをデジタル化し、外部システムと統合、可視化することで配送ルートの最適化、走行距離の削減による二酸化炭素排出量、燃料コストの削減を実現可能にしているとのことです。またこれまで物流企業にとって課題であった非効率性による配送の遅延を最低限に抑えることができ、この点においても高い顧客満足度を得ているようです。オペレーションの改善、効率化によって配送量の増加が見込め、コスト削減と配送量の増加の両方から収益拡大が期待できます。
今日、物流はEdtech(エドテック)、Enterprisetech(エンタープライズテック)、Healthtech(ヘルステック)、Fintech(フィンテック)と並んで、最も高い収益を生み出すセクターの一つとして認識されています。インド財務省によると、物流市場の市場価値は1600億ドル(約17兆円)以上で、2020年の市場価値は2150億ドル(約22兆8,000億円)に達すると予測されています。また、新型コロナウイルスの蔓延によって浮き彫りになった物流とサプライチェーンの問題を解決するための最先端テクノロジーを採用しているB2B物流テックスタートアップが投資家の関心を集めているようです。FarEyeの競合として注目を得ているスタートアップにはLetsTransport(レッツ・トランスポート)、Fr8(エフアールエイト)、Shadowfax(シャドウファックス)、BlackBuck(ブラックバック)、Delhivery(デリーベリー)、Freightwalla(フレイトワラ)などがあります。
新型コロナウイルスの影響で配送に遅れが出たりと商品を受け取る側としてストレスを感じている人は多いのではないでしょうか?運送会社側もロックダウンなど政府による急な発表によりオペレーションの変更、配達地域の制限の問題など、これまで気にすることのなかった事象に対応する必要が出てきました。このようなことを背景に物流産業ではこれまで以上に企業間、また企業と顧客間のクリアなコミュニケーションが必要とされてきているように思います。FarEyeのサービスはより透明性が高く、シームレスで、既存のサプライチェーンの課題を解決し、企業とエンドユーザーの両者にとって安心感と満足感を与えてくれているように思います。

※1 ラストワンマイル:最終拠点からエンドユーザーへの物流サービスのこと。顧客へ商品を届ける最後の区間。
※2 3PL(サードパーティー・ロジスティクス):企業が抱える業務のうち、物流部門を第三者企業に委託する業務形態。

Source:物流テックのFarEyeが1300万ドルの追加調達に成功
FarEyeホームページ:https://inc42.com/buzz/fareye-raises-additional-13-mn-in-series-d-round-led-by-fundamentum/

 

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