1.はじめに
ここ最近、日本では外国からの観光客の数が急速的に増加しています。
その背景には、Covid-19パンデミック終了後の入国緩和や日米為替差による極度の円の価値減少など様々な理由があります。
しかし、より本質的な部分に目を向けると、やはり外国人観光客をこれ程までに魅了している所以として日本の文化、特に日本食の影響が大きな割合を占めているのではないかと改めて考えます。
筆者である私は以前まで、インドのバンガロールという地域に住んでいたのですが、やはり現地の雰囲気を肌で感じていると、日本の伝統的な食事がインドという国でも1つのブランドを築いていることが分かります。
全く食習慣も味覚も違う土地で、母国の料理が世界的に認められるというのは、特に日本の食文化に関わりを持っていたわけではない私でも、嬉しくなります。
この記事では、日本の飲食企業がインド、”バンガロール“に進出する際、どのような点で日本との商習慣的な違いがあり、何を押さえる必要があるかを続編のインタビュー記事も含めて解説していきたいと思います。
その第一弾として、本記事でインドの飲食市場がどれほど可能性に溢れているのか伝えることが出来れば幸いです。
2.インド、“バンガロール”の飲食市場
ではまず、インド、バンガロールの飲食市場が現在どのような状態にあるか、3つのポイントに分けて考察していきましょう。
1)高速な都市化と中間所得層の成長
まず、1つ目のポイントとしてインド全体で人口増加と所得増加が堅実かつ急速に進行していることが挙げられます。
ニュースにもなることが多いインドの人口増加ですが、2023年時点でおよそ14億2000万人と世界第1位の人口規模を誇るほどに成長しました。
以下のデータは国連世界都市化展望によって報告されたもので、バンガロール都市部における人口増加比率を表しています。
このデータからは読み取れるのは、バンガロールの人口が毎年、数十万人の勢いで増加しており、将来的にも継続し続けるということです。(一定期間内において)
人口動態の予測は、経済予測や他の種類の予測に比べて急激な変化が少なく、大幅な失敗予測が起きにくい特徴があります。
これに加えて、GDP(国内総生産)の成長と共に上昇するインド国民の平均所得は、外食の頻度を促進させる効果があると期第出来ます。
(*2)インドの平均所得増加
特に、インド国内の大都市においてはバンガロールが最も外食比率が高い地域であると、日本の大手企業である株式会社“電通”の調査によって報告されており、実際に住んでいても周りのインド人の方は外食する人が比較的多い気がします。(バンガロール都市部の中心地に限った個人的な意見です)
都市名 | 都市圏人口 | 外食比率 | 外食人口 |
デリー | 2,175万人 | 7.3% | 159万人 |
ムンバイ | 2,074万人 | 11.1% | 230万人 |
コルカタ | 1,461万人 | 6.0% | 88万人 |
チェンナイ | 891万人 | 11.2% | 100万人 |
バンガロール | 872万人 | 32.7% | 285万人 |
(*3)農林水産省 インド食品市場調査 DENTSU
バンガロールで外食をする人が多い理由としては、多くのIT関連企業が集合していることで市民全体の所得が比較的高いこと、バンガロールが高原に位置した地域で1年を通して穏やかな気候であること、といった要因が考えられます。
経済的に余裕があって、外出できる気候が整っていれば、自然と外食に費やす額も多くなることは強ち間違っていないのかもしれません。
2)デジタル決済の活用とデリバリーサービスの台頭
そして2つ目のポイントとして、バンガロールの飲食業界では電子決済サービス利用や大手フードデリバリー企業による飲食関連のDXがあると考えました。
まず、デジタル決済の利用により、バンガロールでは飲食店側が顧客に対してより迅速で便利な支払い方法を提供することができます。
インド国内で広く使われているPaytmやGoogle Payといったアプリを使用すれば、消費者は現金やクレジットカード以上に簡単かつ迅速に支払いを済ませることが可能です。
(*4)デジタル決済のQR
このようなデジタル決済の採用は、消費者の購買行動や嗜好に関する貴重なデータ収集にも有効で、インド政府としても推し進めているUPI(デジタル決済統合インターフェース)やデジタルルピー(インド中央銀行によるCBDC)の政策も、着実にインド人全体の消費活動を促進してきました。
さらに、バンガロールでは、SwiggyやZomatoといった大手デリバリーサービスが市場の90%程を支配しており、これらのフードデリバリー・プラットフォームを通じて飲食店は多くの顧客にリーチすることが可能になっています。
(*5)フードデリバリーの成長
3)宗教や価値観の違いによる食の多様性
バンガロールの飲食業界において、ベジタリアンの存在と多様な食のニーズは重要な要素であると考えられます。
インド全体では、ベジタリアンとヴィーガンの人口が非常に高く、その多くは宗教的または文化的な理由によるものが一般的です。
統計データを扱うStatista社の調査によると、2021年-2022年でインドのベジタリアンの数はおよそ3億7000万人以上、全人口の26.5%にも及ぶことが分かっています。
特に、ヒンドゥー教、イスラム教、ジャイナ教など、インドの主要な宗教群の中には、肉食に対する厳格な規則を持つものが多いとのことです。
(*6)Statista社によるベジタリアン統計
インドの食文化は、長い歴史の中で徐々に形成されており、大都市では特にベジタリアンやヴィーガンのためのレストランが数多く存在します。これは、バンガロールのような都市部においても同様で、現段階で既に諸外国と比べても多様な食文化を保有していると言えます。
日本の飲食企業がバンガロール市場に進出する際には、これらの要素を十分に考慮して多様な食のニーズに対応することが、市場での成功につながる可能性があります。
ベジタリアンやヴィーガン向けのメニューオプションを提供すること、また地元の食文化や食材を尊重し、地元の顧客層に適した料理を開発することが新たな市場で競争していく上では重要な戦略となることも考えられます。
これらの戦略は、バンガロールのような急成長している市場において、新しい顧客層を開拓し、自社のブランディングをしていくには効果的な策となることでしょう。
3.バンガロール進出で検討するべき論点
では、バンガロールに進出する日本の飲食企業としては、どのような論点を考慮すべき必要があるのでしょうか?
インドに進出してくる日本の企業が多くある中で、飲食企業にだけ絞った論点を挙げるならば、大きく分けて以下のような5つになるのではないかと考えました。
・文化適応と消費者の好み
・税制と法律
・地域の競合状況と市場調査
・人材確保と教育
・インフラストラクチャーと物流
正直な所、飲食店を経営したこともない筆者が考える論点なので不十分ところが多いかもしれません。
しかしながら、税制と法律やインフラストラクチャーと物流という点では、バンガロールの会計事務所でインターンシップをさせてもらう中で、少しばかりは知識を得ることが出来ました。
そこで感じたのは、インドという日本とは全く異なった国でレストランの店舗経営をしていくには、現地に慣れている信頼できるパートナーが非常に重要であるということです。
人材確保と教育にしても、全く日本の食習慣を知らないインド人のスタッフを雇うとなれば、お店のクオリティーを上げるためには徹底した教育をしなければいけません。
そういった点を鑑みると、これら5つの基本的な論点で信頼できる現地のパートナーと共に地道な成功を続けていくことが大切な気がします。
4.まとめ
ここまでの内容で、インドの飲食市場がどれだけの可能性を秘めているか、実際に進出する際には何を抑える必要があるか、少しでも伝わったでしょうか?
競合が非常に多い日本の飲食市場とは異なり、まだまだ成長余力があるインドの飲食市場を開拓するのであれば、これから数年が絶好のタイミングだと言えます。
続編では、インド国内において複数店舗の経営をされている日系飲食店“くふ楽”インディアの本多康二郎さんにインタビューした内容を記事にする予定です。
上記で記した論点に注目して、今後のインタビュー記事からインドの飲食市場における何か重要な観点を見つけて欲しいと思います。
※本記事の参考サイト一覧
(*1) Bangalore Population 2024 (worldpopulationreview.com)
(*2) Chart: Indian Salary Increases Rebound | Statista
(*3) 166pdf48.pdf (shokusan.or.jp)
(*4)Vol.47 : “デジタル・ルピー”の未来を探る! インドが歩む仮想通貨の革命 – GJC INDIA (g-japan.in)
(*5)Online Food Delivery Market In India, Online Food Delivery Industry (kenresearch.com)
(*6)Chart: The Rise (or Fall?) of Vegetarianism (thewire.in)