一度でもインドに行ったことがある人は「インドは多様性の国である」と肌で感じたのではないでしょうか?
宗教、貧富の差、カースト、あるようでないルール、地域によって異なる食事や言語など……挙げればきりがありません。
本記事では「多様性の国インド」を、宗教や伝統文化の視点から深掘りしてみました。私たち日本人にとって、宗教はあまりピンとこないかもしれません。ですが、インドを語る上で宗教は避けては通れません。
そして、宗教や文化からたどり着くインドの「他人を許す心」や「度量の広さ」について。
堅苦しくなく、日常生活やダンス、映画から学べるインドの多様性について見ていきましょう。
多くの宗教が入り混じる多様性の国インド
インドには、ヒンドゥー教をはじめ、イスラム教、キリスト教、シーク教、仏教、ジャイナ教、ゾロアスター教など多くの宗教があります。割合として、ヒンドゥー教は約80%、イスラム教は約13%で、ヒンドゥー教が大多数を占めます。
割合で見てしまうとイスラム教は少なく感じるかもしれませんが、人口で見るとどうでしょう。インドの人口が約13億人として、
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約13%のイスラム教でも、日本の人口の2倍近くの人々が信仰しているのです。インドの人口ってすごいですね…。
ヒンドゥー教は、日本でも有名なガネーシャやシヴァなど多くの神様がいる多神教です。インド人は、それぞれにお気に入りの「推し神様」がいるそう。牛が神聖な動物のため、原則、牛肉は食べません。
一方、イスラム教は偶像崇拝をせず、1日5回の礼拝があり、豚肉を食べることを禁じています。
インドでは、ヒンドゥー寺院、イスラム教のモスク、シーク教寺院などが近くに並んで建っていることも珍しくありません。もちろん異なる宗教の人々も、入り混じりながら生活しています。
日本人の私には、どうしてもインドの多宗教が混在している社会が不思議で仕方ありませんでした。世界では宗教が原因で戦争や紛争が起こっているし、「異なる宗教は反発し合うもの」だと私は思ってしまっていたからです。
でも、インドを見るとどうでしょう。別々の宗教が並んで一緒に暮らしています。
ヒンドゥー教徒、イスラム教徒が共存したオフィス
約50人が働くオフィスの中で、一人だけイスラム教徒の人がいました。イスラム教徒にとって金曜日は特別な日で、モスクで礼拝をします。イスラム教徒の彼も、長めの昼休みを取って、オフィスの近くにあるモスクに行っていました。彼が金曜日に礼拝に行くのは周知のことで、誰も特別視はしません。
一方、オフィスで多くを占めていたヒンドゥー教の同僚たちは、毎週決まった曜日にサルの神様「ハヌマーン」のお寺に行っていました。ヒンドゥー教のお寺に行くと「プラサード」というお供え物のお菓子がもらえます。お昼休みにお寺に行き、プラサードを持って帰ってきて、オフィスの人に分けることもよくありました。
このように、1つのオフィスにヒンドゥー教徒、イスラム教徒が存在しても、それぞれ自分たちの信仰をして誰も特別視しない。ただ、普通に共存していました。
それどころか、ヒンドゥー教徒の同僚たちがイスラム教徒の同僚に対して「こいつはパキスタンなんだよ」と冗談でしょっちゅう言っていて、私の方がひやひやしたものです。(パキスタンはイスラム教が大半を占める国で、インドとパキスタンは犬猿の仲。紛争も起こしています。)
言った方も言われた方もけらけら笑っていたので、冗談なのだとは思いますが「宗教をいじって笑いにするのか……!」と、私には衝撃的でした。(※仲のよいインド人同士でのエピソードなので、海外で宗教について気軽に発言するのはおすすめしません。)
異なる宗教も認め、共存するインドに多様性の一端を見たのです。
ヒンドゥーとイスラムの融合「カタックダンス」
「インドの多様性」を語るのに、よい例として「カタックダンス」を挙げたいと思います。
インドには「8大古典舞踊」と呼ばれる舞踊が存在し、その1つがカタックダンスです。歴史は古く、発祥は紀元前5世紀から5世紀頃と言われています。サンスクリット語の「カタ(物語、語る)」に由来し、インドの叙事詩や古代神話の物語を伝える踊りでした。特に、ヒンドゥー教の神様「クリシュナ」の物語がよく取り上げられます。
主に北インドで発展し、直立姿勢で、足にグングルという鈴(100~200個)を付けて踊ります。
カタックは、ヒンドゥーとイスラムの両方の文化的要素が融合したものとなっており、インドの伝統舞踊の中でも独特です。それは、16~17世紀のムガル帝国(イスラム教)時代に宮廷舞踊として発展したためでしょう。
イスラム様式の宮廷でカタックダンスが踊られている様子は、映画「Bajirao Mastani」の中でも見ることができます。
インドで絶大な人気を誇るDeepika Padukone(ディーピカ・パードゥコーン)が、美しくカタックダンスを踊っています。振付は、現代カタックダンスの様式を築いたと言われる、インドの人間国宝Pandit Birju Maharaj(パンディット・ビルジュ・マハラジ)によるもの。
カタックダンスは衣装にも「ヒンドゥースタイル」「ムスリム(イスラム)スタイル」があったり、あいさつの仕方がそれぞれの宗教で異なったりします。
「イスラム教徒は偶像崇拝をしない」と述べましたが、カタックダンスでは踊る人がイスラム教徒であっても、ヒンドゥー教の神様の踊りをすることもあるのです。逆に、ヒンドゥー教徒のダンサーがムスリムスタイルの衣装を着て踊ることもあります。
現代は「カタックダンスとはこういうもの」として、宗教のことをあまり気にしない、もしくはそこまでわかっていないインド人も増えてきたそうです。しかし、ヒンドゥーとイスラムの融合が見られるカタックダンスは、文化的にとても興味深いと思います。
インドの社会問題や宗教について切り込んだ映画「PK」
日本ではタブー視されがちな「宗教」ですが、インドにはその宗教を積極的に題材にした映画があります。
映画「PK」
宇宙からきた主人公「PK」が「神様って何?」「宗教って何?」と、純粋な視点でインドの宗教、文化に切り込んでいきます。主人公を演じるのは、インドのトップ俳優であり監督業もこなすAamir Khan(アーミル・カーン)です。彼の主演作「きっと、うまくいく」は日本でもヒットしましたね。
また、男女の恋愛物語も同時に進んでいきます。熱心なヒンドゥー教徒の家に生まれた女性と、イスラム教徒の男性の恋物語で、その中でも宗教についての葛藤が描かれます。
「当たり前」とされているインドの宗教や文化について疑問を投げかけ、宗教や人生について考えさせられる映画です。インドの宗教観や多様性について理解するのに、とてもよい映画だと思います。
インド映画お馴染みのコメディーあり、恋愛あり、涙ありで、インドを知っている人も、知らない人も、すべての人におすすめの映画です!
異なるものを受け入れ、許す心を持つインド
ここまでインドの宗教や文化について述べてきましたが、私が一番大きなインドの特徴だと感じるのが「自分と異なるものを受け入れる心」です。
今まで述べたように、インドではいろんな宗教の人が混ざりあって暮らしています。多宗教が混ざりあって存在できる要因の一つが、インドの「異なるものを受け入れる心」だと思います。自分とは違う宗教や考え方の人を認められなかったら、共存するのは難しいですよね。
私の大好きなインドの考え方があります。
日本では「他人に迷惑をかけてはいけません」と教えますが、インドでは「他人に迷惑をかけて生きているのだから、人のことも許してあげなさい」と教えます。
ここに、インドの「他を許容する心」のすべてが現れているような気がします。
日本人の私たちからすると、インドは日本とは違い、上手くいかないことも沢山あるように感じるかと思います。何もかもスムーズにいかないし、自分とは違う考え、違う宗教の人も多い。そんな中で、「違うこと」にいちいち目くじらを立てて、衝突していたら疲れてしまいますよね。だからこそ、インドでは他を認める許容力が育まれたのかな、とも思います。
「他人は自分とは違う」ことが大前提であり、その中でどうやってうまくやっていくか。他人を許した方が楽に生きられるから、インド人はそれを選択したのではないでしょうか。
私はインドの「許容力」に、日本人が学べることが大いにある気がしています。インド人に、心穏やかに生きるヒントをもらいましょう。
