結婚も仕事も文化や宗教を尊重し、時には自分では決められない場面もあるインド。
結婚相手は親が決める
インドではお見合い結婚が主流です。都市部では恋愛結婚も増えてきましたが、まだまだ少数派と言っていいでしょう。
1人目は、インドの首都デリーで働いていたときのインド人上司。
結婚の話になったとき、おそらく40代くらいのその上司は「結婚式当日、はじめて妻に会ったよ」と言いました。 「インドはお見合い結婚が普通」とは聞いていたものの、結婚式当日まで本人と会わないこともあるのかと、日本人である私は衝撃を受けました。 |
2人目は、同じ職場にいた20代前半の若い女の子。苗字が「グプタ」というその子は、言いました。
「私は同じグプタ姓の人としか結婚できないの。今両親が相手を探しています」 なぜ全く同じ苗字の人しか結婚できないのか、その詳細はわかりませんが、おそらくカーストが絡んでいるのかと推測しました。デリーという都会で、20代の若い子でも、このように結婚相手を決めるのかと驚きました。 |
3人目は、日本で知り合った30代のインド人男性。日本で働き数年経ちますが、もうすぐ結婚するのだそう。
相手は同じくインド人で、どこで知り合ったのかと聞くと「まだ会ったことがない」と言います。 両親がインド国内でインド人女性を探し、一度インドに帰り結婚式を挙げ、日本に連れて帰ってくるそうです。 この場合も、結婚まで相手には会わないし、結婚相手の女性もよく知らない日本にいきなり行くのだから、すごいことだと驚きました。 |
お見合い結婚は国境をも越えるのか……!と衝撃でした。
この3人から見えるのは、インドではまだまだお見合い結婚が主流であること。
そして、それは国境を越えても成り立つことがわかります。私もインドで結婚の話を聞く度に、日本とはあまりにも違う感覚に驚いたものです。
インドの離婚率は驚異の2%以下
実際にインドをよく見てみると、私の周りの夫婦は仲が良さそうです。インド人は家族をとても大事にし、夫婦そして家族は、うまくいって幸せそうでした。
実は、インドの離婚率はたったの2%以下なのです。一方、日本の離婚率は30%以上。3組に1組が離婚しています。
インドでは世間体を考え、離婚が難しいと考える方が日本よりも強い傾向にあるということも、もちろんあると思います。
インドでの離婚へのイメージは、私の感覚では日本よりシビアで、センシティブのように見受けました。
インドで結婚相手を決めるときは、相手の生活レベル、カースト、性格などを親がチェックするといいます。最終的には、インド占星術で相性を見て決定することも少なくないようです。
カーストで決まる職業
結婚相手は両親が選ぶことが多いインドですが、職業はどうでしょうか。
インドでは、元々ほとんどの職業がカーストによって決まっていました。カーストはバラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラの4つの階層があると言われていますが、実際はもっと細かく分かれています。
インドでは1950年に、カーストによる差別は禁止すると法律によって定められました。しかし、この法律はカースト制度そのものを禁止したわけではなく「カーストによる差別を禁止」するものであり、カーストそのものは今も人々の中に残っています。 |
インドの都市部では「カーストは関係ない」というインド人も増えてきました。カーストとは元々役割分担的な意味合いもあり、司祭、教師、清掃、鍛冶屋、農家、大工などの伝統的職業は、カーストと絡み合い、世襲的に親から子へ受け継がれるものでした。
しかし、経済発展がめまぐるしい現在のインドでは、この伝統的職業に当てはまらない新しい職業がどんどん増えてきているために、カーストが関係なくなってきたという見方もできます。
とは言え、結婚相手は同カーストから選んだり、地方ではいまだにカーストによって職業が決まる文化が色濃く残っているようです。
家族単位で仕事をしていることが多く、当然のように息子が後を継いでいました。
糸を染色し、手織りでラグを作っている親子がいました。聞くとカーストは低いそうですが、カッチでこの伝統工芸が残っているのは、この家が最後の一軒だそうです。
質素な家に住み、ラグ作りは外に屋根を建てただけの簡素な場所で行っていました。
カーストが低くても、インドの伝統文化を守っていたり、海外から評価される物づくりをしたりしています。
カーストはとても複雑で、私たち日本人に理解することは困難です。インドの文化を知らないと「差別だからよくない」と簡単に言えるでしょう。
親から子へ代々受け継がれる伝統。カーストはその文化を守る一端を担っているのかもしれない、と感じたのです。
限られた選択肢の中で暮らすインド人の幸せとは
結婚、職業とインドの状況を見てきて、思うことがあります。
爆発的に経済発展しているとはいえ、日本と比べると、インド人の選択肢は限られています。「結婚相手も職業も自分で選ぶことができない」なんて、日本人の私たちから見たらかわいそうに思うかもしれません。
もちろん私は外国人の立場であり、部外者です。外からパッと見て「あの人は幸せそう」なんて簡単に言うことはできません。それでも、なお、多くのインド人は限られた選択肢の中でも、結婚相手を愛し、家族を大事にしながら、幸せに生活しているように感じられました。
うれしそうに家族の話をするインド人に会ったり、レストランや移動中の列車内で家族をいたわっている姿を見たり、インドにいる間いたるところで感じました。
インドより自由な選択肢があって、物も豊かで恵まれているはずなのに、どうしてだろうと考えずにはいられません。
一見向上心があり、いいことに見えるかもしれませんが、終わりのない欲求を持つことは本当に幸せなことでしょうか?
インド人は日本人のように豊富な選択肢があるわけではない場合もあります。
けれど、現状を受け入れ、どうしたら心地よく過ごせるか、限られた中で最大限幸せに生きる方法を心得ているのではないでしょうか。「諦め」とも違う、今を受け入れる大きな心があるように感じます。
足るを知る
インドにいると、この言葉をよく思い出します。自分が置かれた環境下で、最大限の幸せを見つける。自分に合う相手を大勢の中から探すより、決められた相手といかにうまく付き合っていくかを考える。
今回のテーマに答えはありません。
お見合い結婚やカースト制度を推奨する意図もありません。