Amazon Foodはインドのフードデリバリー産業に新たな風を吹き込むのか?

by 田中啓介 / Keisuke Tanaka

(1)Amazon Foodはインドのフードデリバリー産業に新たな風を吹き込むのか?

インド大手経済メディアのThe Times of India社の2020年5 月21日付報道によると、Amazon Indiaがフードデリバリーサービス、Amazon Foodを始めたようです。Amazonのフードデリバリー産業への参入は去年から報道されていましたが、新型コロナウイルスの蔓延でサービス開始を延期していました。

■ Amazon Foodが提供するサービス

現段階ではバンガロールの大規模住宅団地や、オフィスが立ち並ぶマハデバプラ地区、ベランダール地区、マラサハリ地区、ホワイトフィールド地区のみでサービスが利用できます。今後バンガロール内での利用可能地域を広げ、後にインド国内の他主要都市へのサービス提供に着手していくようです。Amazon Foodは現時点で100以上のレストランと提携しており、また、ニッチな領域のレストランとの提携を増やし、かつ、Amazonプライム会員でなくとも配達料、包装料ともに無料でサービス提供することで、インド国内フードデリバリー市場の大手ライバル企業であるZomato(ゾマト)やSwiggy(スイギー)に対抗していく、と報じられています。

■ インド国内フードデリバリー市場の動向

Zomatoは今年1月にUber Eats(ウーバーイーツ)のインド国内事業を買収したことでマーケットシェアは38%と国内シェアトップとなり、それを同シェア27%のSwiggyが追う状況となっています。しかし、新型コロナウイルスに伴うロックダウンの影響で業績が悪化し、これまでにZomatoが約520名、Swiggyが約1,100名の従業員を解雇し、一部のクラウドキッチンを閉鎖すると発表しています。コロナ禍の影響が冷めやらぬ中でAmazon Foodがどのようにして市場のシェアを獲得していくのか、Amazon Foodのローンチによってインドのフードデリバリー産業がどう変革していくのか、そして現在インド国内Eコマース産業で2番手であるAmazon Indiaが今回の新サービスによって国内最大のEコマースを展開しているFlipkart(フリップカート)に追いつくことができるのか気になるところです。

個人的にはAmazonでよく日用品や食材を購入しているので、そのついでにご飯のデリバリー注文が出来るようになることはとても喜ばしいです。Zomatoも便利でよく利用していましたが、配達料がかかること、注文の多い時間帯には追加料金がかかることを考えると、Amazon Foodの配達料無料はとても魅力的です。

Source:Amazon、インドでフードデリバリー事業を開始

 

(2)新型コロナウイルスで新たな気づき。インド人の働き方シフトで見えてくるメリットは?

インド大手経済メディアのThe Economic Times社の2020年6月8日付報道によると、6月1日よりロックダウンが徐々に解除されてきているものの、多くの企業は約半数の従業員に対しWork From Home(以下“WFH”という)を認める方針を続けていくようです。

■ インド国内の外資系企業のリモートワークに対する方針動向

インドの日用消費財を取り扱うMarico(マリコ)は今回の重要な働き方改革を外部のコンサルティング会社とともに進めており、少なくともこれまで会社出勤していた従業員の40%を今後長期にわたってWFHにシフトすることを決めました。また、大手広告代理店グループWPP傘下のWunderman Thompson(ワンダーマン・トンプソン)は50:50体制をとることで会社出勤する社員を半数に抑えることを視野に入れており、Mercedes-Benz India(メルセデス・ベンツインド)は週3日のみ会社出勤を認める方針をとるようです。同社の取締役社長兼CEOのMartin Schwenk氏は「オンラインとオフラインの混合は新常識“ニューノーマル”である。WFHが実際によく機能していることに感動しており、私自身にとってもこの新しい働き方は快適である」と述べています。

一方でThe Times of India社の5月11日付報道にもあったように、インド大手金融機関Axis Group(アクシスグループ)やMotilal Oswal Financial Services(モチラル・オスワル フィナンシャルサービス)はポストロックダウン対策として、会社に居ながらも安全に働くことができるよう、早い段階で従業員に対し会社に戻ってくるよう奨励していました。Nestle India (ネスレインド)はWFHを続けつつも、会社で働かざるを得ない従業員に対して2メートルのソーシャルディスタンスを確保できるように机の配置を工夫しているようです。

■ ニューノーマルな世界が与える働き方への影響

ロックダウンが徐々に解除されてきてはいるものの、インド国内の多くの会社は出来るだけWFHを継続していく方針をとっていくようです。実際に2ヶ月以上続いたロックダウン中に政府機関を除くほとんどの会社はWFHを余儀なくされていましたが、その中でWFHの仕事効率におけるメリットに気づいた会社も多いようです。会社に出勤する必要がなくなることで、通勤へのストレスがなくなり、体力的にも精神的にも余裕が持てます。また、交通渋滞の緩和につながり、インドで深刻化する排気ガスによる空気汚染を防ぐこともできるでしょう。新型コロナウイルスによって従来の常識が常識ではなくなった“ニューノーマル”な世界が広がったことで、これまでの無駄に気づくことができました。この気づきは今後の社会の在り方に大きなインパクトを与えてくれるでしょう。

しかし、インドの新型コロナウイルスの被害は決して楽観視できるものではありません。6月8日時点で累計感染者数は25万人を超え、7日の1日の感染者数は過去最大の9,971人を記録しました。本日よりショッピングモールやレストランは運営を再開し、宗教的な参拝も認められ、感染者の伸びは今後さらに勢いを増すでしょう。私の住んでいるカルナータカ州は累計感染者数約5000人と、他の州に比べるとまだ少ないものの、8日に1日あたりの最大感染者数、308人を記録しています。不要不急の外出は控え、外出時はマスク着用、消毒液を持ち歩くなど引き続き自分でできる感染対策を徹底しようと思います。

Source:多くのインド企業が今後もWFHを続ける姿勢を表明

 

(3)新型コロナウイルスで見えてきた自家用車の必要性。トヨタの新戦略はインドでの四輪車普及に一石を投じることになるか?

インド大手経済メディアのThe Economic Times社の2020年6 月12日付報道によると、トヨタのインド法人であるToyota Kirloskar Motor(トヨタ・キルロスカ・モーター / 以下“TKM”という)はロックダウンの解除に伴いショールームの営業を再開、また売上げ促進のため、新戦略を採用する旨を発表しました。今回発表された新戦略には (1)6月中にBS-VIモデル購入の場合、割賦支払い90日間延期、(2)Innova Crysta、 Fortuner、Camry Hybrid、Yaris、Glanzaは頭金ゼロでの購入が可能、(3)最初の6ヶ月間、10万ルピー(約14万円)あたり899ルピー(約1250円)の手数料での定額月賦払い(EMI:Equated Monthly Installment)が可能、(4)YarisとGlanzaの買戻し補償などがあります。

■ インド国内中間層以上の移動手段に与える影響についての考察

今回の新型コロナウイルスの蔓延で“ソーシャルディスタンス”という言葉が流行り、段階的にロックダウンが解除されているインドでも、ショッピングモールやレストランなどで一定数以上を同時に入店させないなど対策が取られています。また、インド国内での配車サービスの普及により以前と比べて移動が便利になりましたが、同大手であるUber(ウーバー)やOla(オラ)も現在一度に2人以上の乗車は受け付けていません。こういったことを背景に今、四輪の自家用車があらためて注目を浴び始めています。2018年12月時点で1000人当たりの四輪車の保有数はわずか22台で、日本の591台、中国の164台と比較するとかなり低い数値であり、インド国民の所得水準の低さと同時にこれからの四輪車の普及の余地が大いにあることが分かります。ロンドンのキングス・カレッジの社会学者Maryam Aslany氏によると、四輪車を買うことができる年収120万ルピー(約168万円)以上のミドルクラス、アッパーミドルクラス層はインドの人口の14%を占めているとされていますが、この層が今後はさらに増え続けていくと考えられています。今回TKMが発表した新戦略は中所得層を含む幅広い層に魅力的に映るものと思われ、四輪車購入の敷居を低くするものとなることを期待しています。

Source:トヨタインド、売上げ促進のための新戦略を発表
インド中級層内訳
インド階級別年収
1000人あたりの自家用車保有台数

 

(4)インド人従業員を増員するIBM、他の外資系企業にとってもインドはまだ魅力的な市場だろうか?

インド大手経済メディアのThe Economic Times社の2020年6 月19日付報道によると、IBMは直近1週間のうちにインド国内での求人募集を新たに500件追加したようです。同社は国別の従業員数を明らかにはしていませんが、世界に35万人いる従業員のうち3分の1はインド国内にいると推測されており、今後もインドを主力としていくようです。DeepDive Equity Research(ディープダイブ証券リサーチ)のリサーチ部門トップであるRod Bourgeois氏は、「アメリカ、ヨーロッパ内で十分なIT人材を見つけることが厳しくなっている今、IBMを含むその他のIT企業は引き続きインドの豊富なIT人材を頼らざるを得ないだろう。IBMの今回のインド人の採用は人件費削減も考慮してのことだろう。」と述べています。

■ IBMが取った戦略とインドにおける雇用

IBMは2012年から収益が下降傾向にあり、クラウドとコグニティブコンピューティングに焦点を当てたサービス内容に事業を再編成してきています。昨年7月にはRed Hat(レッドハット)を買収したことで世界1位のハイブリッド・クラウド・プロバイダー(※以下参照)となりました。インドでの採用に注力している一方で、同社が現在焦点を当てている分野での専門性が低く、新要件に適応できないと判断した従業員の解雇が進んでいるようです。

IBMはバンガロール、ハイデラバード、ノイダ、グルガオン、コルカタに構える約93万平米のオフィスのうち約半分の賃貸契約を更新しない意向を示しており、会社出勤せざるを得ない約25%の従業員以外にはWork From Home(以下WFHという)を認める形で固定費削減を進めています。インドでは約2ヶ月もの間ロックダウンで外出禁止が強制されたため、WFHをせざるを得ない状況でしたが、同社はその間でも以前と変わらないサービスを提供できていました。他の国でもWFHを勧め、オフィスの賃貸契約を解消し、人件費の安いインドで採用を積極的に行っていくことは近年業績が伸び悩んでいる同社にとっては賢明な判断だと思います。また、新型コロナウイルスの影響によって失業率が伸びていることに加え、今年4月に卒業したばかりのインド人新社会人の多くも就職難民となっているので、他の外資系企業でもこのような動きが進み、インドに活気が戻ってくることを期待しています。

※”ハイブリッド・クラウド・プロバイダー”とは、さまざまなプラットフォーム間を連携するオンプレミスのインフラやプライベートクラウド、パブリッククラウドサービスなどで構成されているコンピューティングやストレージ、各種サービスを総合的に提供できるプロバイダーのこと。

Source:

IBM、インド国内での求人を増加
IBM、インド国内オフィスを約50%削減する方針

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