1. 湾岸諸国との伝統的なつながり
ビジネスの世界では、古くから世界中の商人が海を渡り、経済的成功をおさめてきました。商人といえば、特にユダヤ人や華僑・印僑が有名ですが、地域としては、ユダヤ人が欧米諸国で特に存在感を持ち、華僑が東南アジアで成功している傾向にある一方で、インド商人である「印僑」が主戦場としているのはドバイを拠点とした中近東・アフリカ諸国です。
ドバイはUAE(アラブ首長国連邦)の首長国のひとつですが、歴史的に中近東とインド亜大陸をつなぐ貿易中継地として、特に金や繊維などの取引において重要な役割を担ってきました。
現在、ドバイではディルハム(Dh : Dilham)という通貨が流通していますが、1947年にインドが独立してからもしばらくの間はドバイでインドルピーが使われ、また、その後も「湾岸ルピー」としてインドルピーを代替する通貨が運用されたほど、経済圏におけるインドとの伝統的な強い繋がりを持っています。
また、現在約1,000万人のドバイ人口のうち約3分の1がインド人であると言われています。
2. UAEとの包括的経済連携協定(CEPA)の締結
インドは2022年2月にUAE(アラブ首長国連邦)との間に2国間の包括的経済連携協定(CEPA)を締結しました。
UAE国営エミレーツ通信社(WAM)のメディアによると、両国間で取引される品目の80%近くについて関税が撤廃されると発表していて、両国間における石油以外の貿易取引額が現状の約450億米ドルから5年以内に約1,000億米ドル(約13兆4,000億円)規模にまで拡大するであろうと報道されています。
3. 印僑が湾岸諸国を中心に展開するハイパーマーケット「Lulu」
昨今においてもインド国内の人材斡旋事業者を通じた中東湾岸諸国への出稼ぎ労働者は多く、そういった労働者の中からドバイを中心とした湾岸諸国で事業を立ち上げる実業家も多数生まれています。
アブダビに本社を構えるEMKE Lulu Groupの代表を務める彼は、1973年にアブダビに渡り、叔父の小さな食料品店を手伝いはじめたことをきっかけに、その後中東湾岸諸国でハイパーマーケット「Lulu」を展開して大成功を収めました。
最近はこの「Lulu」をバンガロールに逆輸入をしてオープンさせ、インド国内で圧倒的な注目を集めています。
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2022年3月にはタミル・ナードゥ州政府とMOUを締結し、3,500億ルピー(約5,900億円)を投じて今後チェンナイにも「Lulu」を展開していくと発表しています。
豊富な野菜や食肉・シーフード、自社で生産をしているプライベートブランドのPB商品や惣菜・パンもあります。
タイ製品として有名な日本食材シリーズJapanese Choice等の輸入食材やオーガニック食材も豊富にあり、外国人のニーズに対してもしっかりと応えてくれる安心感があります。
4. スタートアップ起業家が食材調達網を大変革
少し余談になりますが、この「Lulu」がバンガロールで誕生したと同時に、コロナ禍で大きな発展を遂げた様々なデリバリーサービスのおかげで、例えば、バンガロールでの食生活はここ数年で劇的に豊かになったのではないかと思います。
野菜を買うなら食材デリバリーサービス「Gourmet Garden」
野菜がとにかく新鮮で素晴らしいのですが、特に葉物の野菜がいろいろ買えるのが超便利。近所のスーパーではなかなか買えないクレソンやルッコラ(=ロケット)が買えるのもいいですね。
牛肉・豚肉・生ハムを買うなら老舗食肉加工店「Bamburies」
牛ヒレ肉や豚バラ肉、薄切り肉、生ハムまでいろいろ買えて超便利。生ハム(Serrano Ham)は絶品。
鶏肉・マトンを買うなら食肉加工スタートアップ「Licious」
冷凍せず、新鮮な生鮮食材を120分以内に届けるというコンセプトでサービスを展開するLiciousの鶏肉・マトン肉はとにかく美味しい。
和食・アジア料理関連の食材を買うなら「Maindish.in」
刺身やいくら、薄切り肉、日本米、味噌、醤油、みりん、マヨネーズ、わさび、餃子の皮などなど和食関係の食材が幅広く手に入る。少し高いですが、いつでも買えるだけでありがたいですね。
チーズを買うならチーズ専門デリバリー「Vallombrosa Cheese」
ここのモッツアレラはとても美味しいし、さらにクリーミーなブラータチーズも絶品。
食パンを買うなら食パンデリバリー「Shokupan.in」
ここの食パンは本当に美味しい。なかなかインドでは見つからないもちっとした日本人好みの食パンです。「Lavonne Café」のミルクパンを食パンとして食べるのもおすすめですが、やはりShokupan.inには敵いません。
お酒を買うならインドでおそらく品揃えNo.1「Tonique」
ここはなんでも揃っていて、日本のウイスキーや焼酎まで取り扱っているのですが、とにかくビールの品揃えが最高。ワインなら1MGモール内のFood Hallに併設されたワインショップがおすすめ。良質なワインをその日にデリバリーしてくれます。
5. まとめ
インド国内小売業は、外資規制による国内産業の保護を受けており、いまだにウォルマートやセブン・イレブンも小売業としてインド進出を果たせていません。
一般的に新興国における経済発展やサービス・商品の品質改善などは、外資系企業の市場参入による一定の競争原理が働くことによる影響も大きいと思われますが、インド国内市場がインド人実業家らによって自ら活性化していく可能性を見据えることも、インド市場の魅力のひとつだと言えるのではないかと思います。