未来ある若者が抱えるリスク〜インドにおける“未成年の飲酒問題”に迫る〜

by 橋口悠雅

1.はじめに

読者の皆様の中には『若気の至り』という言葉を聞いて、身に覚えがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、まだ20歳ですが、少々思い当たる節が無いこともありません。

若いころの失敗や失態は当然あって良いと思います。ただ、それは取り返しがつく物事に関してだけであり、もしそれが人生を狂わせるかもしれない場合、私たちは十分にリスクを考えた上で行動する必要があります。

例えば、未成年の飲酒問題がその内の1つだと考えます。比較的容易に手に入ってしまうお酒だからこそ私たちは正しい付き合い方を学ぶ必要があり、取り返しのつかない失敗を未然に防がなければなりません。

日本でも、たまに未成年者の飲酒問題がニュースになることはありますが、世界規模で見ても、未成年の飲酒による被害は存在します。特に、人口ボーナス期にあるインドは今後、社会の中核を担う若い世代を正しい方法で教育しなければなりません。そこで、本記事ではインドにおける未成年飲酒の現状とこれからの対応策について詳しく迫っていきたいと思います。

2.インドにおける未成年飲酒の現状

ではまず、未成年飲酒の対象となるインドの若い人々が他国と比較してどれ程いるのかを把握していきましょう。以下のグラフは、中国の人口統計とインドの人口統計を比較したものです。明らかに、19歳以下の人口が中国に比べて多くなっており、2040年にはこれら若い世代の約1億7000万人が労働人口としてインドという大国を支える人材になります。

(*2)

日本の総人口が約1億2000万人なので、若者の人口だけでもインドの圧倒的な将来性を物語っていると言えます。これに加えて、毎年約150万人のIT人材が工科系の大学を卒業していることを踏まえると、今後世界を牽引していく国と評価されているのも納得できます。

しかしながら、このような優秀な人材でも一歩道を踏み外しまうだけで取り返しのつかない事態になってしまいます。以下の調査によると、70%もの未成年者が「これまでに1度は飲酒を経験したことがある」と答えており、現在のインドが非常に深刻な問題を抱えていることが分かります。 (*3)

具体的な数値を調査したレポートは残念ながら見つけることが出来ませんでしたが、おそらく最低でも50%以上の未成年は飲酒をしたことがあるのではないでしょうか。

(*3) (*4)

特に、デリーやパンジャブなどの北インドが未成年の飲酒が多い地域として確認されており、私が別の記事で執筆しているインドのDVに関する調査でも、北インドにおける犯罪数は他の地域と比べて多いという結果が出ていたので、これら2つの問題には少なからず関連性があるような気がします。

また、上記のアンケートで飲酒したことがあると答えた未成年者の45%は、「自分たちの親が子供の行動を把握していない」と述べており、大人世代の問題意識も非常に乏しいということが分かりました。(*4)

3. 未成年飲酒の身体的リスク

そもそも、大人にとっては「百薬の長」と言われるお酒ですが、未成年者が飲酒をした場合の身体的リスクとは、どのようなことが考えられ得るのでしょうか。

まず前提として、「心身共に発達段階にある未成年者は、アルコール分解能力も大人と比べて未熟なため、細胞への悪影響、成長ホルモンの抑制など十代の身体にとって飲酒はマイナス以外の何ものでもない」ということは言えます。

その上で、重要な3つの身体的リスクをまとめたので見ていきましょう。

(1)人格形成に歪みが生じる

20歳未満の、いわゆる思春期は脳の発達が活発になり、知性、理性、創造力などの重要な能力が形成される時期です。また、脳の前頭葉など判断や抑制を担当する部分が未熟なため、物事の判断や意思決定が感情的に偏る傾向があります。

アルコールは神経細胞に対して有害なので、この時期に飲酒を続けてしまうと発達に関与している神経細胞を傷つけ、機能を損なうことがあります。

これにより、理性的な行動が出来ない、感情の調整が困難になるというリスクに直面しかねないので、将来の健康的な人格形成を妨げないためにも、未成年者によるアルコールの摂取は控えることが重要になります。

(2)アルコール依存症になりやすい

未成年者は成年者と比較して、アルコール依存症のリスクが高まることが確認されています。この要因としては、脳が発達段階にあること、ストレスや心理的な要因、無知や教育不足など様々で、依存症を予防するためにも教育や健康的な環境の構築が重要になります。以下は、飲酒開始年齢とアルコール依存症の生涯有病率を示すグラフです。

(*5)

(3)学習能力が低下する

思春期からアルコールを摂取し続けると、短期的な記憶力に深刻な悪影響を及ぼすことが分かっています。理由としては、アルコールによる影響で脳の記憶を担当する「海馬」という部分が減少し正常な発達が出来ないからだと言われています。このような学習や動機づけに関わる神経回路が機能不全になることは、未来ある子供にとって取り返しのつかない問題であることは間違いありません。以下のグラフは、短期的な記憶力とアルコールの影響を比較したものです。

(*5)

4. 未成年の飲酒問題への対応

上記にあるようなリスクを改めて把握すると、未成年飲酒による身体への被害は想像以上に深刻ではないでしょうか。周りの皆が飲んでいるからという理由で知識がないまま飲酒してしまうと、これらのような問題を引き起こしてしまう可能性があることを理解して頂けたかと思います。

では、インドの未成年飲酒を助長する大きな要因の1つであるバー、酒屋、レストランでのアルコール提供は現状どれほど容易な酒類の入手手段になっているのでしょうか?

インド・タイムズ・グループが行った調査によると、インドのIT都市であるバンガロールで12店舗パブを訪れた際、そのうち5つのパブが未成年者に対して個人IDを確認せずアルコールを提供しているという結果になりました。

複数のパブが未成年者の個人IDを確認しないのは、「年齢に関わらずアルコールを提供すれば店舗で収益を得ることが出来る」、「未成年者へのアルコール提供は禁止されているが、罰金が課せられることは少ない」といった2つの理由があります。(*6)

また、インドでは州によってアルコールに関わる法律と税制が異なっており、飲酒年齢も様々です。クジャラート州では1961年以来、一般市民によるアルコールの消費が禁止されています。しかし一方で、インド連邦管轄領域であるプデュシェリでは、アルコール貿易からほとんどの収入を得ています。(*7)

(*8)

このようにアルコールに関する法律が比較的緩く、歳入のほとんどをアルコールに依存してしまっている州が複数あることが、中々インド国内における未成年飲酒の削減を推進できない要因になっています。

5. 教育と予防の重要性

インドという国は、まさに多様性に溢れており他国と比較しても様々な異なる特徴を持っています。私個人の意見としては、やはり子供と一番距離の近い親が正しい教育をするべきであると考えます。

もちろん、国による規制の強化は未成年飲酒の被害を抑える有効な一手です。しかし、この問題の当事者である子供たちが自らアルコールを控えるスタンスを取らない限り、根本的な問題解決には至りません。

以下では、実際にインド人の間でどれほど未成年のアルコール飲酒に関して問題意識があるか探るため、「現在のインドでは、未成年飲酒の問題がどれほど身近だと感じますか?」という質問を年齢・性別の違う3人の方々に答えて頂きました。

インド人 男性 24歳

未成年の時でもパーティーに行けば、誰かしらがお酒を購入して来ていました。それほど珍しいことでもなく、アルコール依存にならなければそれほど問題でもないような気がします。

インド人 女性 22歳

周りにいたほとんどの友達は15,16歳頃からお酒を飲める環境にありました。パブやレストランに行って、仮に個人IDを確認された場合は店員によるお酒の提供はありません。しかし、成人している友達は購入可能なので、あまりIDの確認が機能していなかったように感じます。

インド人 男性 36歳

インドでは未成年の飲酒問題が非常に身近で、特に映画やドラマのような子供たちに影響力があるコンテンツで飲酒のシーンを格好良く使うことも未成年飲酒を招く原因だと思います。

6. まとめ

本記事では、インドの未成年飲酒問題について、多様性あふれるインド特有の飲酒における問題、未成年飲酒のリスク、年齢・性別が異なるインド人の声という点に絞って考察してきました。

飲酒という行為自体は、コミュニケーションを促進させたり、日々の食事をよりおいしく感じさせたりと、私たちの人生を豊かにしてくれる存在です。

しかし、飲酒運転や過度のアルコール摂取も含めて、未成年で飲酒をしてしまうことより、正しい楽しみ方を知らないことの方が危険なのだと感じました。

そして、それらの教育を真面な大人や国の機関が子供たちに施すことこそ未成年の飲酒問題を抑制する最も効果的な対策ではないでしょうか。

 

※本記事の参考サイト一覧

(*1) Alcohol Consumption: Weighing the Risks and Benefits ⋆ (thecostaricanews.com)

(*2) IEcoS (Economic Services) Indian Economics India’s Population Policy and Development(Poverty, Unemployment and Human Development): Study Material Page 7 of 8 – DoorstepTutor

(*3) Legal Drinking Age: How Old Is Old Enough? – Forbes India

(*4) Cheers! Young India is talking bottles, pegs, pints and shots – India Today

(*5) 20歳未満とお酒 | 年齢・性別でリスクも変わる | キリンホールディングス (kirinholdings.com)

(*6) Underage Drinking – Know the Implications and Alcohol Laws | Legodesk

(*7) Alcohol Laws in India (civilsdaily.com)

(*8) What is the legal drinking age in India and its states? (ezylegal.in)

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