インドに旅行した経験のある方や、駐在や居住した経験のある方はおそらく、いや必ず一度はインドの街中でAmulのお店や商品を見たことがあると思います。
Amulとはインド西部のグジャラート州アナンド県に本社を構える、正式名称をAnand Milk Union Limitedというインド発、世界ランク上位の乳製品製造会社です。
歴史を比較
まずは日本とインドにおける牛乳の歴史から。日本人が牛乳を飲むようになったのは飛鳥、奈良時代の645年に乙巳の変のころ、百済から移住した智聡の子孫、善那が孝徳天皇に牛乳を献上したという記録があるようです。
いずれにせよ、日本もインドも私たちが想像するより遥かかなたの太古の時代から何かしらの形で牛乳や乳製品が存在していたようです。あまり知られていない話ですが、仏教の祖であるお釈迦様は牛乳で悟りを開いたという説もあるようです。
少し話が逸れましたが、今回比較する各乳製品会社の設立時期は、どうでしょうか?
明治乳業が1906年、森永乳業が1910年、雪印メグミルクは前身の雪印乳業が1925年、Amulは1946年となっていますから日本の代表3社が若干早いものの、全社ともに20世紀の中頃までに設立されたということではほぼ同時期と言っても良いのかな?と言う感じでしょう。
牛乳消費量の比較
では、インドと日本の牛乳、乳製品の消費量はどうでしょうか?
2021年の統計によるとインドの年間の牛乳、乳製品消費量は約8,300万トン。それに比べて逆に日本は世界でも消費量の少ない国であり、一人当たり年間約30kg。これを現在の人口約1.26億人で考えると、年間の消費量は約378万トンとなります。
日本の人口はインドの約1/10と言われていますからこの数字からみてもその差は歴然です。確かに我が家でも毎日最低500mlの牛乳を大人2人が消費しています。
また、Amulはミルクとチーズ部門だけを見てもインド全体の約40%~50%のマーケットシェアを誇ります。ということは、Amulだけで一般社団法人日本乳業協会に登録されている、全ての乳製品会社を合計した数量を超える消費量を提供しているということになりますから、3大会社との比較は割愛します。(確かに、インドと言えばチャイ。インドの朝はチャイ(南ではコーヒーの場合もあり)がないとまず始まりません。
そして、出社してまず仕事を始める前にも朝チャイ、昼休憩でもチャイ、そして午後の仕事中にもチャイブレイクがあります。家に誰かがやってっ来るとほぼ自動的にそして絶対にチャイを出さないといけません。
販売形態の比較
そんな牛乳、乳製品大国のインドを支えるにはインド独自の販売形態を日本と比較してみたいと思います。
調べてみるとそれもそのはず、1976年には約2万1,000販売所あったものが2007年にはその半減以下の9,045販売所にまで減っているそうです。
このような販売所は、主に配達に重点を置いているので、高齢化社会で実は需要がありそうですが実際はその逆で、最近は苦戦を強いられているようです。
また、現在配達で届けられる牛乳、乳製品の多くははスーパーやコンビニで販売されている一般の商品とは差別化されていてビタミンや鉄分、カルシウムなど何かしらの付加価値が添加されている商品だというのも特徴です。
一方、インドですが、こちらは日本とは真逆で町中にAmulのミルク、ヨーグルト、ギー、パニールなどを扱うAmul販売所が無数に存在しています(一部地域を除く)。
そして、インドで見かける販売所は配達サービスはやっていません。スーパーでは1リットルの紙パックに入ったAmulミルクを見かけることはありますが、これは長期保存用であり、誰が買っているのだろう?と不思議に思うほど手にしている人を見た記憶がありません(一部地域を除く)。
さらに、私の住むグジャラート州アナンドではAmul販売所がそこら中にあるにも関わらず、毎朝6時頃にAmulのミルクを積んだ移動販売車(リヤカー?)が来てくれる地域もあります。
2020年のコロナ渦以降、インド政府は何度か厳しいロックダウンに踏み切りました。そんなロックダウン中にスーパーですら営業が許されない時、営業が許された数少ない業種がミルク販売所でした。
この事実をみても、インド人にとって町に無数に存在するミルク販売所が、いかに生活に根付き大切な存在かということが分かると思います。
Amulに限らずこのように無数に存在する販売所はフランチャイズ方式によるものがほとんどです。インド人にとってミルクは必要不可欠な食材ですから、いつでも、どこでも、すぐにでもミルクが手に入る販売所の存在は必須だといえるでしょう。
主力製品比較
まず日本ですが、先にも触れたようにスーパーやコンビニで一般的に販売されているのは、一般的ないわゆる牛乳の他に、低脂肪乳や濃厚牛乳、カルシウム入り等で200ml、500ml、1リットルの紙パック入りが基本かと思います。宅配で取り扱われている商品は、それにさらにビタミンや鉄分といった付加価値が付随している商品で、ガラス瓶に入っている場合もあります。
そして、これらの商品はビニールのパウチに入って販売されていて、長期保存用のタイプのみが紙パックで販売されています。
ちょっと待ってください!
そもそも私たちが牛乳というと牛(カウ)のお乳じゃないのでしょうか?Amul商品を見ているとはっきりと「カウ」とか「バッファロー」とか「キャメル」と記載されている物以外は、何のミルクなのでしょうか?
そして単に「ミルク」として販売されている物は、実は、カウミルクとバッファローミルクが混ざっているということです。そして各商品によって脂肪率と無脂乳固形分率が異なります。
さらに、単にミルク度が薄いか濃厚かと言うだけでなく商品によって販売されているサイズが異なり、同じサイズでも商品によって価格が異なるという特徴もあります。
例えば、ミルク度の一番薄いAmul Taazaは一般的には200mlから1リットルサイズまでを中心に販売されていますが、ミルク度が濃厚なAmul Goldは500mlから1ltrサイズで販売されています。
私が日々、Amul販売店へミルクを買い求めに行ったり、インドで生活をしている中で触れ合う人たちを観察していると、どうやらミルク度の薄いTaazaは一番値段が低く設定されており、250mlのパウチが10ルピー(約15円)で購入でき、500mlが20ルピー(約30円)であることから比較的収入の低い世帯がメインターゲットとなっており、濃厚なGoldは一番値段設定が高く500ml サイズが30ルピー(約45円)で、比較的収入の高い世帯がメインターゲットとなっているようです。
(個人的な嗜好による場合を除く)インドは毎日ミルクが欠かせませんから、たかが10ルピー、されど10ルピーです。皆にミルクが行き渡るようにサイズと価格が工夫され、その結果がインドの需要と供給に表れているように思います。
準主力製品比較
次に、簡単に準主力商品を比べてみます。
しかも、調べてみると「とろけるチーズ」は、今回比較している3社の中で実は雪印の商品であり、明治や森永からは発売されていません。日本でおなじみのパルメジャンチーズは3社ともから販売されていますが、インドではそもそもパルメジャンチーズがレアで、Amulでも取り扱いがありません。
さらに、意外かもしれませんがインド人は非常にピザ好きです。そこでAmulでは数種類のピザ用チーズを販売しているのも特徴的ではないでしょうか。
お次はヨーグルトです。日本は各社ともにフルーツなどのいわゆる甘いヨーグルトを販売しており、私たち日本人にとってもおそらく一般的にはプレーンヨーグルトよりもお馴染み商品だと思います。
最近はAmulからイチゴとマンゴー味のヨーグルトが発売されていますが、決してメジャーではありません。またベンガル地方のスイーツであるマスティドイというヨーグルトが発売されています(一部の地域では甘いプレーンヨーグルトも発売されていますが、メジャーではありません)。
最近、Amulでは健康志向なお客さんをターゲットにしたProbiotic ヨーグルトを販売していますが、まだまだメジャーではないようです。
最後にバターです。日本の場合は明治と雪印はバターの他にマーガリンを販売していますが、森永ではバターの一択のみです。
ギーはヒンドゥー教徒にとっては宗教儀式の中でも欠かせないアイテムです。食事の場面では富裕層になればなるほど、油よりギーを利用すると言われています。そのため、Amulではギーの種類以外にも、もっともノーマルのギーでは誰でも手が届く20ルピーの小パウチタイプから、15kg入りの一斗缶タイプまで用意されています。
インドあるある
最後に牛乳、乳製品にまつわるインドあるあるです。
乳製品にまつわるインドあるある①
ミルクの買い出しはほぼ毎日;先にも書いたようにインドで一般的に購入する牛乳はビニールのパウチに入っており、消費期限が非常に短く長くても購入日から2日です。
乳製品にまつわるインドあるある②
買ったばかりのミルク、ヨーグルトが傷んでいる;流通時、店頭保管時にミルクやヨーグルトのきちんとした保存の温度管理がまだまだおろそかなインド。買ってきたばかりで消費期限内にもかかわらず傷んでいることが時々発生します。
乳製品にまつわるインドあるある①
ミルクは煮沸必須:日本ではスーパーやコンビニで買った冷たい牛乳をクーっと飲むなんてこともありますが、インドは基本的にはまず煮沸が必須です。十分に煮沸してから飲まないとお腹を壊す原因にもなりますので、冷たい牛乳を飲みたい方は煮沸したものを冷やしてから飲みましょう!
近年Amulではチョコレート製造工場を新たに稼働させ、チョコレートブランドを確立したり、清涼飲料水の発売を始めました。また、インドの食生活で必要不可欠なAtta粉の販売にも着手しました。日本のメーカー同様に牛乳、乳製品だけでなくより幅広い商品展開を積極的に手掛けているように思えます。
Amulのミルクはインド全体ではなく限られた州での流通となっていますが、その他の商品の一部はインド国外でもすでに販売されています(なんとAmulのギーは日本でも一部の高級スーパーや輸入食品を取り扱うお店で販売されています!)。
Amulの年間総売上高は過去10年を見てもずっと右肩上がりで、過去10年で約4倍に伸びています。今後のインドの成長にともないAmulが新たにどんな商品を展開してくるのか、Amulの成長から目が離せません。
今後、他にも日本の乳製品会社がインド市場に勝負に出てくるのか、そうであればどんな商品で勝負するのか見守っていきたいと思います。