宗教大国インドでは、様々な宗教のお祭りが毎週のようにあります。
人口の多数を占めるヒンドゥー教は多神教であり、何百もの神様がいます。そのため祭日も頻繁にあるのですが、今回はクリシュナ神の誕生日の様子をご紹介します。
愛の神様クリシュナ神への24時間音楽の奉納
私がインド古典音楽を学んでいるムンバイのヴリンダーヴァン・グルクル(住み込みの音楽学校)では、愛の神様クリシュナ神を信仰しています。学校の中には広々としたお寺があり、毎日クリシュナ神に向けた祈りを生徒が捧げています。
ヴリンダーヴァン・グルクルで1年で最も盛大なイベントは、クリシュナ神の生誕祭(通称ジャンマスタミー)です。
クリシュナ神の生誕祭はインド歴に合わせて毎年日付けが違います。今年2021年は8月30日の24時でした。
インドでは、祭日に断食を行うことがよくありますが、クリシュナ生誕祭の場合は女性で断食を行う人が多いです。クリシュナ生誕祭の当日はグルクルにいる女子生徒やグルジの家族の中で、女性は24時間の断食を行います。
クリシュナ神が生まれたのは夜中の24時ですが、23時頃からお寺ではプージャ(祭祀)が行われます。
沢山の果物やココナッツ、甘いお菓子を並べて、パンディットと呼ばれる司祭がクリシュナに向けた儀式を行います。
日付の変わる24時頃儀式が終わり、お供物が参列者に配られます。主に、キールと呼ばれる甘い乳粥や、神前に供えられていた甘いお菓子です。
そして、グルジがバーンスリー(竹笛)の演奏を始めます。
バーンスリーと呼ばれる竹笛は、インドで最も古い楽器の1つです。クリシュナ神が吹いていたことでも有名です。
お供物を食べた生徒が少しずつグルジの演奏に加わり、みんなで一緒に演奏を捧げます。多い年では何十人もの生徒が一緒に演奏します。
その時に起こることを、ただただみんなが楽しみながら共有します。
クリシュナ神の演奏するインドの竹笛バーンスリー
クリシュナ神生誕祭で演奏する楽器はバーンスリーと呼ばれる竹でできた横笛です。
竹と言っても葦に近く、日本の竹よりもずっと細いです。
この笛を吹いていたクリシュナ神は、数千年前に実際にインドにいた人物が神格化された神様だと言われています。クリシュナ神が生きていた数千年前からずっと吹かれていたバーンスリーは、インドの古典楽器の中でも特に歴史が長いです。
クリシュナ神という神様は、愛の神様として知られます。
若い時のクリシュナ神は、牛飼いの家庭で育てられました。牛はインドではとても神聖な動物です。
牛の世話をしながらクリシュナ神がヴリンダーヴァンの森でバーンスリーを吹くと、村の女性たちがその周りを踊ったと言われます。容姿が端麗で、力強く、笛を吹けるクリシュナ神。クリシュナ神には16,000人の妻がいたとされます。
それに対して現在古典音楽で使われているバーンスリーは太くて長い竹で作られ、低いがでます。そのため、古典音楽は瞑想のような穏やかな音楽となります。
同じ笛でも、サイズによって音の雰囲気を変えて楽しむことができます。
現代のクリシュナPt.ハリプラサード・チョウラシアの音楽と祈り
もともとフォーク・ミュージックで知られていた楽器バーンスリーを古典音楽の楽器として改めて有名にしたのは私のグルジ(師)であるPt.ハリプラサード・チョウラシアです。
グルジは、ラヴィ・シャンカルの元妻であるアンナプルナ・デヴィから古典音楽について学び、ビートルズのジョージ・ハリスンの世界ツアーに参加したりと、世界各国でインド古典音楽を広める活動を長年行ってきました。
グルジがバーンスリーを演奏するときに必ず話してくれることがあります。
「私にとって笛を吹くことは、神様への祈りの儀式。自分の部屋で一人で吹いている時も、クラスルームで生徒と一緒に吹いている時も、何万人の聴衆を目の前にしても同じ。ただ笛を構えて、あとは音楽が降ってくる。」
現在82歳にしてまだ現役の音楽家として活動しているグルジは、人生をとにかく音楽だけに捧げてきたことで有名です。グルジと共に生活した生徒の多くが、グルジの部屋から1日中途絶えない笛の音を耳にして、あれほど練習している人は他にいないと話します。
インドの人々の神様への愛
インドには本当に沢山の神様がいて、それぞれの神様への様々な祈りの形があります。
ただの形式的な宗教儀式ではなく、文化として本当に人々が楽しんでいる様子を見ることができます。
これだけ宗教が日常の生活に自然に染み込まれている生活は日本ではなかなか体験できないので、またご紹介させていただきます。
※インドの神様の詳細については様々な見解・諸説がありますが、あくまで執筆者個人の見解としてご紹介をさせていただきました。