しかし、インドで「外国人がインド人と結婚する」と言うと、ヒンドゥー教式に則った結婚式の体験談はあっても、その後のインド人とインドで婚姻手続きをする方法が紹介されている記事はほぼ皆無。
検索範囲を広げるために英語で検索をしてみても、基本的にインド人と外国人が結婚する場合は、インドで言うSpecial Marriage Act(裁判所婚)の方法の紹介が99%といっても良いほどでした。
これは英語で書かれている情報の場合は、外国人がインド側から見るいわゆる英語圏の人物でキリスト教徒などの他宗教者ということを想定して書かれているからなのです。そこで、私はインターネットでは欲しい情報が収集できなかったため、国際結婚に詳しい弁護士や法律に詳しいインド人の友人に聞いてみることにしました。
しかし、弁護士はもちろん自分の仕事になるからSpecial Marriage Act(裁判所婚)の説明しかしません。友人はというと、やはりこれは素人で経験者でもないので日本人=外国人=Special Marriage Act(裁判所婚)という構図しか出てこないのです。
「それじゃ、インターネット検索と同じではないか!」と思っていたところ、たまたまインドでHindu Marriage Act(宗教婚)で国際結婚手続きを行ったという日本人の方に出会うことができました。しかも、この人物は自分の経験をもとに常に情報をアップデートしておられてとても信頼のおける人でした。この点では、私はとてもラッキーだったと言えるでしょう。
そこで、この記事では今後インドでインド人と国際結婚する方の一助となるべく、出来るだけわかりやすくインドならではの自分自身の体験談も交えて、インドにおけるHindu Marriage Act(宗教婚)を用いた国際結婚の手続きの流れをご紹介します。(注:インドは各州によって手続きや必要書類が異なる場合があります。これはあくまで私がグジャラート州でグジャラート州婚姻登録法2006に基づいた体験内容だということをご了承願います。)
インドの婚姻方法2種
まず、インドにおける婚姻の方法から簡単に紹介すると、インドには裁判所で行うSpecial Marriage Act(裁判所婚)とヒンドゥー教式に則って行うHindu Marriage Act(宗教婚)の2種類が存在します。
前者は基本的に異教徒同士が結婚する場合、またはヒンドゥー教徒と異教徒が結婚する場合に利用される婚姻法で、後者はヒンドゥー教とそれに準ずると考えられる宗教の者(シーク教徒、ジャイナ教徒、仏教徒)が結婚する場合に利用できる婚姻法です。
ここでは何が重要かというと宗教であり国籍ではないということです。
そしてSpecial Marriage Actは手続きが裁判所を通して行われ裁判所が告示広告を行いその結婚について反対の者がいないかを公に問う期間が設けられるため、申請から登録まで最低30日(標準でありケースによってはそれ以上)の待機期間があり、結婚式を行うか行わないかは各人の自由です。
逆にHindu Marriage ActはMunicipal Party (Corporation)にてヒンドゥー教式に則って婚礼の儀式を行った後に登録手続きを行うため待期期間というものはなく、婚姻登録は担当の登記官の作業のスピード次第となりますが、裁判所で行うよりは断然早いです(基本的には約3~5日といわれています)。
因みに、Municipal Party (Corporation)とは日本の市役所のような存在で出産、死亡、婚姻の情報や、公衆衛生を管理している行政機関であり各市に設けられています。
日本人には自分は無宗教だと考える人も多いのですが、神道やキリスト教など特別な信仰者でない限り基本的に(特に自分は無宗教だと考える人の場合は)やはり仏教徒に該当すると考えるのが妥当でしょう。
つまり、仏教徒であればHindu Marriage Actの適用が可能となり、せっかくあこがれのインド式結婚式を行うのであれば、式後にあえて婚姻登録に時間がかかるSpecial Marriage Actを選ぶよりは、Hindu Marriage Actで婚姻登録を済ませるのが効率的であるという結論からこの婚姻方法にてインドで国際結婚をする運びとなりました。
必要書類
基本的にはSpecial Marriage Actで必要な書類と大差はありませんが、Hindu Marriage Actではヒンドゥー教式に則って結婚式を行った後に婚姻登録するため、若干の追加書類及び資料が必要となる点と、インド人と日本人では用意する書類が異なるという点は注意が必要となります。
インド人側が必要な書類は、基本的には5~6点が必要です。
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次に、日本人側が必要な書類も、基本的には以下5~6点が必要です。
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なお、2.と3.はインド国内の日本大使館(または領事館)にて発行してもらう必要があります。
そのためあらかじめ日本から戸籍謄本(3ケ月以内)を2通(各証明書に対し1通必要な為)取り寄せておく必要があり、発行依頼の際に提出が必須となっています。証明書自体の発行は通常は翌開館日にしてもらえます。
最近は日本で発行された謄本の原本をインド側に提出を求められることは殆どないので基本的に外務省よるアポスティーユ(※以下引用をご参照)は必要ないと思われますが、不安な場合は日本で謄本を取り寄せる際、外務省にてアポスティーユを依頼し、アポスティーユされた謄本をさらに1通持っておくと良いと思います。(その場合は謄本の取り寄せは3通となることに注意しておかなければなりません。)
「外国公文書の認証を不要とする条約(略称:認証不要条約)」(1961年10月5日のハーグ条約)に基づく付箋(=アポスティーユ)による外務省の証明のことです。提出先国はハーグ条約締約国のみです。アポスティーユを取得すると日本にある大使館・(総)領事館の領事認証があるものと同等のものとして,提出先国で使用することができます。-出典:外務省
そして、婚姻する者の共通書類として以下が必要になります。
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以上が婚姻登録に必要な書類なのですが、これをそのままMunicipal Partyに持ち込むのかというと、そこがインド。なんでもNotarize(公証)が必要なのです。
そのため、これらすべての書類が揃った段階でまずはNotary Office(司法書士事務所)でNotarize(公証)してもらうことになり、実際に式を執り行った司祭と証人2名の合計3名にはNotary Officeに立ち会ってもらいその場でサインしてもらう必要があります。
ちなみにHindu Marriage Actの婚姻登録は結婚式後30日以内に済ませる必要があるという決まりがあるため、結婚式後にしか揃えられない書類や資料以外は結婚式前に全て準備しておくのがベストです。
結婚式の下準備
というのも、ヒンドゥー教にも保守と比較的リベラル派とがあり、堅物の司祭の場合は特に食文化を理由に認めてくれないケースもあるからです。(私の地域のISCONとBAPSは堅物の司祭であるため認めてくれない派でした。)
ちなみに、結婚式にかかる時間は人それぞれ異なり、長い場合だと三日三晩ぶっ通しということもあります。逆に結婚式を極端に簡略化したいとか、予算の関係など事情があるなどであれば、式を執り行ってくれる司祭のいるお寺で最低限のゲスト数名にお越しいただきプジャ(儀式)だけサクッと行うという方法もあります。
「少しでもインドらしい結婚式がやりたい!」と思う場合は最低でも1日は必要で、それに合わせてパーティープロットとよばれるバンケット会場を手配し、当日のレイアウトやステージの装飾、提供する食事の内容などを決定する必要があります。
また、値段も勿論ピーク時は高く設定されています。結婚式の日程、司祭、会場が決まれば次に招待状を用意する必要があり、この招待状は式の約1カ月~2週間前程度のタイミングで配ることになります。
招待状は専門に作成してくれるお店がたくさんあるのでデザインも細かく相談して決めることができます。値段はピンキリでシンプルな物と立派な製本に仕立てられた招待状というよりはハードカバーの本のような物(マハラジャなどはこのスタイルが多い)では、全く値段が異なります。
また、普通だとインド人側の家族が色々取り仕切ってくれるとは思いますが、私のケースは本当に稀で家族はノータッチで全て自分たちで決めさせてくれました。
その後、結婚式の約2カ月ほど前から結婚式で着用する衣装や宝石類などを徐々に購入し、約1カ月前頃になると衣装の最終的な仕上げと女性の場合は特にビューティーパーラーを予約しなければいけません。
インドの結婚式で通常であれば女性はサリーまたはレンガチョリと呼ばれるドレスを、男性はドティパンツにジョドゥプルスーツという衣装を着用します。これらの衣装はオーダーメイドも可能ですが、レディメイドの場合でも最終的にはそれぞれにあった寸法の微調整を行います。
女性の場合は特にこのような衣装を扱っているお店を何軒も回って自分の好みの物を見つけることになるでしょう。
ちなみにヒンドゥー教の結婚式では新婦は赤色の衣装を着用するのが最も縁起が良いと考えられるため、婚礼の衣装は通常は赤系統の色を選ぶことになります。(ビビッドなピンクやマロン、ダークオレンジは赤の仲間とみなされます。)
インドのビューティーパーラーにはたいてい婚礼用のメニューが用意されていて、予算や内容に応じて選ぶことができます。インド大手化粧品メーカーのLakmeが運営するサロンを目安に考えると25,000ルピー~45,000ルピーくらいが相場のようです。
このほかのビューティーパーラーも回ってみたがどこもこれくらいの値段でした。
基本的な内容はフェイシャル、フルボディマッサージ、全身脱毛(Vライン含む)、ヘアカット、ヘッドスパ、ネイル、メイキャップ、着付けなどがフルセットになっておりフェイシャルやヘッドスパの回数やメイキャップ方法の種類(ノーマル、3D、エアブラッシュなど)、施術に使用する薬剤や化粧品のメーカーで値段が異なります。ここに別途婚礼用のマヘンディ(ヘナタトゥー)を当日の約2~3日前に両手、両足に施してもらうための費用が約3,000~5,000ルピーくらいかかります。
普段、インドのビューティーパーラーは日本と比べてずっと手ごろなことが多いのですが、婚礼のパッケージは日本と負けず劣らずインドではかなり高額と言えるかもしれません。
余談ですが、最近のインドは結婚前にVラインの処理をするのがどうやらトレンドのようで、それを知らなかった私はされるがまま、激痛を伴い気が付けばVラインどころか全てがツルッツルの状態にされ、あとから考えると恥ずかしいや笑えるやら痛かったやら、最初から知っていればこの部分はお願いしたかどうか、何とも複雑な気分になりました。
結婚式当日
私の場合は三日三晩続くような結婚式は到底体力が持たないと思ったのと、双方の家族が諸事情によりオンライン参加となったため、昼から夜にかけて結婚の儀式+披露宴という形のものを行いました。
そのため、早朝から花嫁の私は周りの世話係に連れられビューティーパーラーでメイク、ヘアセット、着付けなどに出向くことになり、少し遅れて花婿である主人も男性用のビューティーパーラーで同じくメイク、ヘアセット、着付けを完了させ、会場に出向くことになります。
会場に到着すればまずは写真撮影です。
パーティープロット内でカメラマンやビデオマンに色々な指示を出され約1時間程度撮影会が行われた後、控室にて式が始まるのを待ち、まずは新婦が新郎が待つステージへお花で装飾された枠の中に納まり歩くという形で会場の入り口付近から爆竹やら爆音級の音楽隊、そして参加してくれているゲストの方々の一部が踊り先導してくれるなか会場に入り、新郎とご対面となります。
その後、揃って司祭がお経を唱えるなか、次々とプジャ(宗教儀式)を行うのです。
これらの儀式はアグニという火の神様に様々なお供え物を与えるというところから始まり、新郎と新婦がともにお米やお花、ミタイ(インドのスイーツ)などをステージ中央に設けられた火の中に入れていきます。
その後、両親立会いの下(いない場合はゲストの中からその時のみの両親を担ってもらう)大きな赤い糸で新郎と新婦の首元を囲い、新郎、新婦がお互いに大きな花の首飾りをかけあったりと数種類のプジャを行い、メインとなるのが新郎と新婦が赤い糸や白い布で結ばれた状態で火の回りを7回歩く「マンガル フェラズ」です。
まずは新郎がリードする形で3回、後に新婦がリードする形で4回火の回りを歩き、一周回るごとに新郎側の兄(いない場合はこれも両親の時同様にゲストの中から男性陣が次々と兄として役目を果たす)からマナカ(水連の種を弾けさせたもの)を受け取りそれを火の中へ投入します。
その後、新婦が兄の額に赤い粉をぽちっとつけ、花束の首飾り飾れば周りで祝福をするゲストからドバーっと花弁が投げ込まれます。これを7回繰り返します。それぞれに健康と繁栄とか富と幸福、家族への愛と尊敬などという意味があります。 その後、新郎から新婦へマンガルスートラというネックレス(夫婦のきずなの誓いで日本で言う結婚指輪のような存在)を贈られ、新婦側から7名の女性により新婦の耳元でそれぞれの祝福の言葉を受け、各ゲストとの写真撮影会や食事を経て終了となります。 |
バンケット形式のビュッフェでメニューの数や内容で料金が異なりますがここはケチって貧相なものにしてしまうどころか、万が一食事が足らない!なんてことになっては結婚式そっちのけの大騒動になりかねないので、大盤振る舞いする気持ちで用意するべきでしょう。
結婚式後の手続き
先にも書いたようにわざわざヒンドゥー教式に則って式を挙げたのですから、その後、何日も日数を要するような裁判所を通す必要はありません。ここからはMunicipal Partyの出番です。現在、デリーやゴアなど一部の州ではすべてオンラインでの手続きを行っているので、そのような自治体で登録を行う場合はシンプルに手続きを登録すれば完了となります。
しかし、デジタルインディアを掲げるインドですが、まだまだMunicipal Party に出向くのが主流で本来であれば、必要書類で紹介した内容の物を持ち込めば終了となります。
この担当官に言わせれば私は外国人だからいくら仏教徒でもHindu Marriage Actの適用が不可というのです。
それなら海外に住んでインド以外のパスポートを保持している海外在住インド人、いわゆるNRIはどうなるのでしょう?NRIが通常のインド人と結婚する場合は問題なく手続きしているのに。。。
いくらルーツがインドにあっても国籍が違えば彼らは外国人でありこの担当官のいうロジックは支離滅裂ということになります。なによりも先にも書いた通りここで重要なのは宗教であって国籍ではないということです。
そこで、たまたま主人の友人がMunicipal Partyの長、いわゆる市長職にあたる人物だったため、彼にこの内容を訴えてみたところ、担当官は自分の上席にあたるとはいえ他人から言われたことに気分を害して、「コレクターの承諾があれば手続きをする」と言い出しました。
通常、コレクターに会うというのは長ければ何カ月も陳情に出向いて叶うかどうかといったところですが、たまたま私の主人の患者さんがコレクターの奥さんだったため、即座に会っていただけました。
もちろん、コレクターが婚姻の許可を出すなんて普通はあり得ません。婚姻登記担当官はそれを承知で私たちに無理難題を与えたつもりだったのです。私たちがコレクターにお会いして、この内容を伝えたところ彼は激怒し、彼の部下に担当官を呼び出し直ちに処理するようにと指示をだしました。
しかし、うちの町のコレクターは秘密裏に大の親日家であり、自分の娘のミドルネームを日本の第14代天皇・仲哀天皇の皇后である神功皇后からとりJINGUと名付けているほどの人物です。
そして翌日、婚姻登録証明の交付を受けに行ったところ、登記官もやっぱり賄賂を要求してきました。私にしたらオイオイなのですが、要は最初から彼も賄賂が欲しかったのです。さて、これでインド側の婚姻登録は無事完了です。
この後は必要に応じてFRROにてVISAの書き換え作業をし、日本大使館(または領事館)に婚姻届けをインド側で得た必要書類とともに提出し、完了となります。
日本大使館(または領事館)は大変丁寧に必要書類の説明をサンプルとともにご用意していただいているので、インドで経験するようなトラブルはまずあり得ません。
それを知らない主人はいまだに周りに聞かれる度にとても自慢げに婚姻登録のドタバタ劇を話しますが、私は心の中で「インドあるあるだからね。ま、これも含めてThe Indiaな結婚なこと!」と1人つぶやくのでした。